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2025.06.20

ライフ

猛反対を受けながら「築130年の醤油蔵」をリノベ宿に。廃業70年後に18代目が甦らせた味と場

醤油の原料を保管する蔵をリノベーションした客室。職人たちが寝泊まりしていた2階スペースがベッドルームになっている。1泊朝食付き2名51200円〜(筆者撮影)

醤油の原料を保管する蔵をリノベーションした客室。職人たちが寝泊まりしていた2階スペースがベッドルームになっている。1泊朝食付き2名51200円〜(筆者撮影)


当記事は「東洋経済ONLINE」の提供記事です。元記事はこちら。
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奈良県田原本町――創業1689年の醤油醸造所の醤油蔵を改装した宿「NIPPONIA 田原本 マルト醤油」は、客室わずか7室。テレビも過剰なサービスもないが、蔵が蓄えた静寂が“何もしない贅沢”を教えてくれる。ディナーでは、火入れもろ過もされていない生醤油をジュレや泡に変え、地元野菜や鮮魚に合わせるコースが名物。醤油の奥行きを五感で味わう一夜だ。

レストラン『蔵元料理 マルト醤油』ディナーコース「藤」(11000円)の一部。泡状にした酢醤油を用いて魚介や野菜をいただく(筆者撮影)

レストラン『蔵元料理 マルト醤油』ディナーコース「藤」(11000円)の一部。泡状にした酢醤油を用いて魚介や野菜をいただく(筆者撮影)


戦後、一度廃業を決めた「マルト醤油」

筆者が昨年末に宿泊した際、マルト醤油の当主は代々、名前に「藤」の字を継ぐしきたりがあると聞いた。しかし、18代目となる現在の当主、木村浩幸さんには入っていない。実は木村さんの祖父で、先代の木村藤平氏が当主だった頃、戦後の食糧難で廃業を余儀なくされたのだった。

当時、生産効率のよいアミノ酸液を用いた醸造法がすでに確立されていたが、添加物を一切使用しない天然醸造にこだわった先代は廃業を決めた。きっと、断腸の思いだったことだろう。
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「父は私が19歳のときに亡くなりましたが、別の仕事に就いていましたし、祖父は醤油について一切語りませんでした。その代わり、地域の歴史を現地へ連れて行って話してくれましたね」と、木村さんは振り返る。

大学卒業後、大阪のアパレル会社で働いていた木村さんは、2001年に先代が亡くなった後、蔵を片付けていると、1000点を超える古文書が見つかった。もちろん、読むことはできなかったが、それまで意識したことがなかった家のルーツについて考えるようになった。

ある日、蔵の中にあった箪笥の引き出しを開けると、マルト醤油のマークと屋号が描かれた前掛けが見つかった。きれいに畳んであり、先代がとても大切にしていたことがわかった。同時に醤油づくりに捧げた人生が伝わってきた。

「祖父の口癖は『人の喜ぶことをしなさい』と『人に感謝しなさい』、それと『地域に貢献しなさい』でした。蔵を片付けているうちに、この町の景観をこの先も守り続けたいという焦りと危機感を持ち、醤油で地域に貢献したいと思うようになりました」(木村さん)

マルト醤油が復活させた醤油。生しぼりならではの豊かな風味とほのかな甘みが楽しめる「生揚げ」(左)と、香ばしさと深みのあるコク、風味が特徴の「火入れ」(右)。各1890円(筆者撮影)

マルト醤油が復活させた醤油。生しぼりならではの豊かな風味とほのかな甘みが楽しめる「生揚げ」(左)と、香ばしさと深みのあるコク、風味が特徴の「火入れ」(右)。各1890円(筆者撮影)

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