OCEANS

SHARE

オバマ前大統領も追悼した彼の死


スターダムへの階段を駆け上がったニプシーだが、2019年3月31日、南ロサンゼルスにある自身のブティック「The Marathon Clothing」の前で銃撃を受け、人気絶頂の中、33歳で帰らぬ人となった​。
advertisement

容疑者は同じギャングに所属していた29歳のエリック・ホルダーで、報道によればニプシーが彼が“密告者”だと噂を流したことから口論に発展し、その後ホルダーが発砲したとされている。

ニプシーの死はHIPHOP界だけでなく、全米に衝撃を与え、犠牲を悼む声が相次いだ。追悼式には数千人が参列し、オバマ前大統領もビデオメッセージを送るほどだった。

オバマ氏は手紙で「(死後に)彼のコミュニティ活動を知り、クレンショー地区で多くの人が暴力ばかりを見る中、ニプシーは可能性と希望を見ていた」や「彼は若者の手本となり、彼の遺産は祝福に値する」と述べ、その記憶がさらに良い影響を生むことを期待すると語っている。
advertisement

また、喪失を悲しんだ多くのアーティストや有名人が追悼の言葉を寄せ、スヌープ・ドッグは「ニプシーは平和の擁護者だ」と称え、スティーヴィー・ワンダーも「家族を失うような悲劇だ」と涙ながらに語った。

ストリート・ヒップホップコミュニティへの影響


素晴らしい楽曲を残したカリスマラッパーが、なぜ「平和の擁護者」とまで称えられたのか。

実はニプシーは音楽だけでなく、地元コミュニティにも大きな影響を与えており、彼の死後、南ロサンゼルスのライバルギャング間で和平交渉が始まったのも特筆する点だ。

ガーディアン紙によれば、事件から数週間後、これまで衝突の絶えなかった街区のギャング同士が初めて会合し、暴力終結の可能性について話し合いが行われた。同じカリフォルニア出身でクリップス・ギャングに所属し、現在も伝統的な西海岸サウンドを届け続ける若手ラッパーLil AD氏も「あれは歴史的なことだ」と回顧している​。

このように、ニプシーの死はギャング社会にも危機感と変革の機運をもたらし、「彼こそがこの街の歴史を変えられる唯一の存在だ」と多くの人に語られていた。



また、HIPHOP業界内でもニプシーは多大な尊敬を集めていた。自身もクリップスの一員であったスヌープ・ドッグは、葬儀で「彼はまるで磁石が引き合うように、自分と多くの共通点を持っていた。ニプシーは常に平和を求める人だった」と述べている。

グラミー協会は「彼の音楽やコミュニティへの投資というメッセージは今でも生き続けている」と評し、アメリカ各地に描かれた数え切れないほどの壁画や引用される言葉が、彼が伝えた「偉大さと優しさは共存する」という精神を象徴している。
4/4

次の記事を読み込んでいます。