連載「HIPHOP Hooray feat.SGD」とは...... つい先日行われた第59回NFLスーパーボウル。ケンドリック・ラマーによるハーフタイムショーは、“史上最も視聴された”といっても過言でないほど話題になった。
あの十数分のパフォーマンスに込められたストーリーとは? HIPHOPに精通するショットガンダンディさんがその全容を解説。
案内人はこの方! ショットガンダンディ(ShotGunDandy)●HIPHOP翻訳家。幼少期から沖縄で育ったマルチリンガルのアメリカ人。HIPHOPの深い知識を活かして楽曲の和訳やスラング、メッセージやリリックの意味をYouTubeなどで解説し話題を呼んでいる。ビートサンプラーバトル「King of Flip 2023」ではベスト4入り。Instagram:@shotgundandy X:@ShotGunDandymk
皆さんいかがお過ごしでしょうか? ShotGunDandy参上です。
アメリカで最も見られているNFLの決勝戦、スーパーボウル。今年は世界中のHIPHOPファンを感動させたケンドリック・ラマーのハーフタイムショーが特に注目されていた。
今回はそんなケンドリックのショーで描かれていた意味深なストーリーについて、ここで触れたい。
「演出全体がゲーム」。その意味は? フィールド上にはプレイステーションのコントローラーの形をしたステージ。モニターに見立てた観客席では、ゲームの起動画面の描写から始まる。
起動が終わるとサミュエル・L・ジャクソンが演じる「アンクル・サム」が登場し、「みなさん!アメリカの偉大なゲームへようこそ!」と、“ゲーム”が開始される。
「アンクル・サム」とは、第一次世界大戦中に軍人をリクルートするポスターに使われ、一気に認知度を上げたアメリカを象徴するキャラクターだ。普段は白人のキャラクターだが、黒人であるサミュエルに演じさせることで、簡単に言えば、「白人たちの機嫌をとるためにゴマをする黒人」という皮肉を込めた演出なのである。
ちなみにサミュエルは、タランティーノ監督の『ジャンゴ』という映画で、同じような役割のキャラを演じたことがある。
この“ゲーム”は、大きく分けて2つのテーマを持っている。「アメリカ政府が作った社会の中で黒人として生き抜くことの意味」と「ケンドリック・ラマーがアメリカに仕掛けている革命」だ。
コントローラーに見立てたフィールド上でパフォーマンスをしているケンドリックと、アメリカ国旗を表す赤、白、青の服を纏った多数のダンサーは、フィールド上に閉じ込められた状態でパフォーマンスという名の“ゲーム”をさせられている。
これは「黒人として、アメリカというゲームの中に囚われてプレイをさせられている」ことを描写しており、政府側に付いた黒人系のアンクル・サムに制御されながら生き抜く展開を見せている。
ゲームの起動と紹介が終わると、ケンドリックが車の上で早速黒人として生きる苦悩や葛藤、誇りなどを静かにラップしながら登場。その間、車の中からは次々と人が出てくるが、ほぼ全員黒人なのも意味深である。
ハーフタイムショーの解説動画はこちら! VIDEO ラップが終わると「今革命がテレビ放映されようとしている。あなた方が選んだタイミングはよかったけど、人選がダメだった」と発言。
これはギル・スコット・ヘロンというアーティストによる曲『革命はテレビ放映されない』へのオマージュであり、「政府のプロパガンダによって黒人の人権や革命は規制されている」などの思想を持つ黒人たちにとっては、重要な曲だ。
ケンドリックがこのショーに込めたのは「今から革命を起こすけれど、アメリカ政府はスーパーボウルというアメリカを象徴する場で、俺をコントロールできると思っただろ? 大間違いだ! 俺をコントロールすることはできないぞ!」という想いである。
彼は操作されるゲーム内で反旗を翻すプレイヤーということである。
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