「ビーフ」のルーツは奴隷制度にあり
「ビーフ」とは「ラッパー同士がお互いを攻撃する内容の曲を出し合う」ことや「互いに敵対心を向けた状態」などの意味を持つが、アメリカ人の感覚だと HIPHOPでのビーフは「争い」というよりも「競い合い」の精神の方が強い。
ビーフでアメリカ人たちが盛り上がるのは競争心の強さからきているが、黒人たちが誕生させたHIPHOPという文化の中で行われるビーフのルーツは、奴隷制度時代まで遡る。

1619年~1865年の間、アメリカでは法的に白人が黒人を奴隷にしていた。言うまでもなく、雇い主の言葉には絶対服従であり、給料が発生しない肉体労働だけでなく、さまざまなことで虐げられていた酷い制度である。
労働だけでなく、理不尽なリンチや差別を受けるなど、黒人たちは現代で起きている「イジメ」よりも酷い仕打ちを受けてきたのである。
そんな厳しい時代も1865年に終わりを迎えたが、法的に「平等」になったところで、白人たちの扱いがすぐに変わるはずもない。

街を歩くだけで罵声を浴びせられたり、やってもいない犯罪の濡れ衣で刑務所に送られたり、給料が良い仕事ほど白人優先だったりと、「人種差別」は続いていたのである。
なんなら黒人と白人が使う公共施設を分ける「ジム・クロウ法」という法律までできてしまった。白人と同じ学校に行けなかったり、バスの座席まで区別されたり、聞くだけでも酷い歴史がそこにはあった。
奴隷制度廃止頃から始まった「ロースティング」
黒人たちは皆、「奴隷制度が終わっても白人たちが平等に扱ってくれるはずはない」ことをわかっていた。
だからこそ、奴隷制度が廃止される前から、夜な夜な白人たちの目を盗んで集まり、円陣を組み、真ん中に立たせたひとりに向けて全員で悪口や罵声を浴びせる、という行為を繰り返していた。
これは奴隷制度廃止後も受けるであろう白人たちからの仕打ちを見込んで、「理不尽な罵声に慣れておく」ための施策であった。

どれだけ白人たちが罵声を浴びせてこようと、暴力を振るってこようと、反撃してしまえば、「黒人」というだけで罪を着せられてしまう。刑務所どころか下手すれば殺害されるケースも多かったのである。黒人たちはどんなにひどい仕打ちを受けても「耐える」しかなかったのだ。
このようにわざと罵声を浴びせあう行為は「ロースティング(Roasting)」と呼ばれるようになった。
ロースティングは直訳すると「焼く」という意味。イメージとしては「ローストビーフ」があり、「ビーフ」というスラングの語源も、一説によるとここから来ているらしい。まさに「ビーフ(相手)を焼く」感じだ。
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