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しかし、日本人の服装が和装から洋服へ切り替わり、着物が身近な衣類ではなくなったことで、業界は縮小。全盛期には京都府内に約100社あった専門企業が、現在は数社に減少したという。
 
「長男なのでいつか自分が継ぐことになると思っていたが、家業の実情はまったく知らなかった」という荒川は大学卒業後に印刷会社に就職し、2年後の14年から京都紋付での仕事を始めた。いまや売り上げのうち着物の黒染めはわずか1%、アパレル関連の染色が主業だ。最初に驚いたのは、営業担当者としてクライアント回りをしていたときのこと。

「黒の濃度が低くて困っているというアパレル関連の顧客に、自社で染めた生地を見せると必ず驚かれた。ほかの会社では真似できない技術だと実感しました」と振り返る。強みは、独自開発した染料と定着技術を使った「深黒」加工だ。

洋服を黒染めする機械。

洋服を黒染めする機械。


なぜ「黒」を極めるのか。黒紋付は、黒さが深いほど高価なものとして扱われてきた歴史があるが、荒川は「日本には漆黒やカラスの羽根のように艶のある濡羽色など何通りもの黒の意味があり、相手に礼を尽くすときに着る色でもある。黒に対する日本人の美意識は海外に比べて高く、ニーズもあります。僕自身好きな色ではありましたが、この会社に入ってもっとよく着るようになりました」と笑う。
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洋服の染め替え事例。綿100%のシャツだが、化学繊維の糸のみ染まらないため、柄やステッチは白く残った。

洋服の染め替え事例。綿100%のシャツだが、化学繊維の糸のみ染まらないため、柄やステッチは白く残った。

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京都紋付では01年に帆布の染色依頼を受けたことをきっかけに、綿や麻、ウール、ストレッチデニムなどさまざまな素材の黒染めに挑戦してきたが、コロナ禍が追い風となった。「一着の服を長く大切に使うためリユースの考え方が一気に広まり、ファストファッションや大量生産が主流となっていたアパレル業界の変化を強く感じています」。

現在はゲオホールディングスが運営するセカンドストリートや、H&Mやフェリシモなどとも提携し、毎月2000着以上の洋服の黒染めを受注し、事業が軌道に乗りつつある。今後は、アメリカや中国、オランダなどの海外パートナー企業とも提携し、海外でも洋服のアップサイクルサービスの展開に挑む。「特別な一着を長く着続けるための黒染めの価値は世界でも高まっていると肌で感じています。日本の伝統技術で蘇らせていきたい」
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荒川優真◎1989年京都市生まれ。大学卒業後、京都の印刷会社に就職。2014年に5代目として京都紋付に入社し、21年に取締役に就任。20年からリウェアブランド「K」の事業化・拡大を手がける。
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文=宮本拓海
Forbes JAPAN=提供記事

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