ベルギーの伝統的な民家のティンバーフレームを忠実に再現。太い丸太で柱や梁などの骨格を組み上げるのが特徴だ。土壁や土間、 茅葺き屋根なども組み合わせ、懐かしくて新しい印象に。(C)Shohei Hishida
当記事は「Forbes JAPAN」の提供記事です。元記事はこちら。 繊細なカンナがけを重ねて木材の両端を丁寧に成形し、均一で柔らかな曲線を生み出す。一方で、大きなまさかりを豪快に振り下ろして丸太の表面を削り落とす。菱田は、日本の匠の技とベルギー古民家をかけ合わせた独自の世界観で国内外から注目を集める「大工アーティスト」だ。
「機能を超えた美しさは、手仕事の魅せ方を考慮して設計することで生まれる。それができるのは、技術をもつ大工だからこそ」。信念に基づき、設計から施工までを自ら手がける。繊細かつ大胆な手仕事を発信する菱田のインスタグラムはヨーロッパや南米を中心にファンがつき、開設から1年足らずでフォロワー21万人超を誇る。
長野県坂城町出身。19歳で大工の世界に飛び込み、全国で腕を磨いてきた。2005年、地元で菱田工務店を創業。07年からはドイツで鳥居を建設するプロジェクトに参加するなど、国境を越えた活動を始めた。転機となったのが、そこで意気投合したベルギーの大工仲間との交流だ。
(C)Shohei Hishida
毎年仲間を訪ねるなかで出合ったベルギーの古民家。かやぶき屋根や土壁、素材を生かした丸太の柱や梁に「どこか懐かしく、かわいらしい」と引き込まれた。魅力的だったのは外観だけではない。木材のもつ曲がりをも生かして柱や梁を組み上げる昔ながらの製法は、機械化が困難だ。「後世に残していきたい手仕事を表現する場として、ぴったりだと思った」。こうして生まれたのが、素材のもつ味わいが存分に生かされ、開放的だが気品も漂う菱田建築だ。
大工の妙技とベルギーの建築思想が織りなす独特の魅力は信州への移住希望者からの支持を集め、軽井沢や白馬などでの受注が相次ぐ。そんな菱田建築は今、ベルギーに逆輸入されようとしている。仲間を介して現地の顧客の要望を受け、デザインを担当。今秋着工予定で、大工としても現地に飛ぶ。
「素材を大切に、伝統の手仕事を美しく残す。それだけを追求して国内外に仕事を広げ、会社としても大きく成長することができた」。これまで菱田の職人技を学びたい海外人材を個別で受け入れてきたが、初めてSNSでインターンを募集すると3日間で120人もの応募があり、ドイツやブラジルなどから選抜された8人を来春まで受け入れる。
「自分自身ヨーロッパで多くを学ばせてもらったし、海外交流を通じてもっと世界の木造建築を学びたい。林業や大工の担い手不足が課題ですが、小さな町で木材自給率を上げて、世界中の人に学びに来てもらいたいです」
(C)Shohei Hishida