次に、なぜブロックチェーンゲームなのか。これは、大のゲームファンであるYZERR念願のプロジェクトで、「ゲームをいくらプレイしたところでただの遊びに終わってしまう」というゲーマーの不満を解消するためのビジネスだという。
ブロックチェーンゲームは、通常のゲームとは異なりゲーム内の通貨やアイテムをNFT(非代替性トークン)として保有することができるため、これらを仮想通貨とトレードできる点が最大の特徴だ。世界全体のブロックチェーン市場は22年時点で46億ドルだが、27年までには657億ドルもの市場規模になると予測され(MarketsandMarkets調べ、22年)、近年、資金調達が急速に増加している分野でもある。
NFTトークンを使用しない、リアル・マネー・トレードを採用したゲームは過去にも存在するが、YZERRがブロックチェーンゲームに引かれた理由は、取引の透明性にあるという。前者は裏オークションの取引や、不正行為による値上がりが問題視されている。一方、取引がすべて台帳型で管理されるブロックチェーン技術を使えば、より公平で安全な経済圏を実現できるというわけだ。
目指すのはドネーション事業
「効果的利他主義の本質に基づいた行動でした」。アーティスト活動を引退し、起業家としての道を歩む理由を尋ねると、まるで哲学者のような答えが返ってきた。効果的利他主義(=Effective Altruism)とは、科学的根拠を基に最も効果的な善行を探求し、世界の利益のために行動する社会運動の名称だ。15年に哲学者ピーター・シンガーの著書で広く知られるようになり、イーロン・マスクをはじめとする、シリコンバレーの起業家や投資家らも注目していることで知られる。
その「効果的利他主義」を体現するのが、今回起業した会社である。YZERRはブロックチェーン技術に、単なるゲーム上の合理性を超えた可能性を感じている。「最終的な目標は、ブロックチェーン×ドネーション事業の立ち上げにあります」。
ラッパーとして自らのストーリーを一度語り終えたYZERRが、今度は起業家としてブロックチェーン、つまり台帳にあらゆる人々の行動が──いわば物語が記録される技術と出合ったことは必然なのかもしれない。
YZERRは言う。「もはや自分には、社会問題を解決する以外のことは眼中にない」と。貧困問題、ひいては“世の中の救われない人々”という大きな課題に挑むYZERR。BAD HOPを日本一のヒップホップクルーに育て上げた彼の、人生の第二幕が今、始まる。
ワイザー◎1995年生まれ、神奈川出身。2014年、中学時代に地元の同級生と結成したヒップホップクルー「BAD HOP」でコンピレーションアルバム『BAD HOP ERA』をリリース、24年2月のツアーファイナルで解散、引退し起業家としての道を歩む。