今新しいと思われているモノは、実は古くて懐かしいモノ
2017年にヴィルドを創業して以来、最新のデザイン&デジタル技術を駆使し、建築業界に新たな風を吹かせている。秋吉さん自身は決してそうは思ってないという。
「建築家という職業が明治時代に海外から日本に入ってきて、それ以降、東京駅を筆頭にコンクリートやガラスを使った多くの洋風建築が造られました。
でもそれ以前は大工さんが、木材を使って家を建てていた。僕がやろうとしていることは、まさに大工さんの仕事。新しいモノって、実は古くて懐かしいモノだったりするんですよ。
例えば昔の家には土間やひさしがありました。土間は熱を蓄えたり、冷やしたりして住環境を整え、ひさしは窓から直接日光が入るのを遮る役割を果たしていたわけです。当時の生活の知恵ですよね。そういうのも今改めて見直しているイメージです」。
22年に誕生した自社のサービスであるネスティングでは、好みの家をアプリ上でカスタマイズできるだけでなく、見積もり&注文までできる。画期的なサービスに映るが、秋吉さんはそうは思わない。
「僕から言わせれば、100年前から日本にある当たり前の風景であり、仕組みであると思っています。
町場の大工と話し合いながら、自分にとって居心地のいい家を建てるというだけのこと。今の社会はいろいろな意味で商業化しすぎているのだと思います。
先ほどの子供の話ではないですが、おもちゃなんかなくても、時間と空間があればどんな遊びだってできるわけですから」。
“古くて懐かしいモノの中に、新しいモノが宿る”。なかなか気付きにくい、ユニークな発想の源は、子供と過ごす時間に加えてもうひとつあった。子供の頃から大好きなFUN-TIME。
「やっぱり読書ですね。いろんな本を読んできましたし、今も続けています。
例えば網野善彦さんの『日本の歴史をよみなおす』という本には、中世日本の歴史や社会について、例えば百姓は農民が中心であるという、日本人に植えつけられていた先入観を壊す一方で、それまで歴史の中で不当に扱われてきた職人や芸能に光を当てるなど、教科書的には触れられていない真実が書かれていてすごく影響を受けました。
子供の頃に、そんなことを言ってくれる大人はいませんでしたから」。
新たなサービスを次々に生み出す秋吉さんの話を聞くにつれ、彼が手掛ける住宅以外のモノ作りにも興味が湧いた。
3/3