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2024.08.30

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「40代で人生に停滞」と悩む男に精神科医・名越がアドバイス。大事なのは“人生の師匠”と出会うこと



「オトナ生活相談室」とは……

どんなに順風満帆な人生でも、停滞期はある。

今回、精神科医の名越康文さんのもとに寄せられたのは、そんな人生の停滞を感じている男性からのお悩みだ。
案内人はこの方!
 名越康文●1960年奈良県生まれ。精神科医。近畿大学医学部卒業後、大阪府立中宮病院(現:大阪精神医療センター)にて精神科救急病棟を設立、1999年に退職。臨床に携わる一方、テレビやラジオでのコメンテーターやコラム執筆など、多方面で活躍中。相愛大学、高野山大学、龍谷大学客員教授。近著に「とげとげしい言葉の正体はさびしさ 5000人のカウンセリング経験から得た精神科医の知見」(夜間飛行刊)。

名越康文●1960年奈良県生まれ。精神科医。近畿大学医学部卒業後、大阪府立中宮病院(現:大阪精神医療センター)にて精神科救急病棟を設立、1999年に退職。臨床に携わる一方、テレビやラジオでのコメンテーターやコラム執筆など、多方面で活躍中。相愛大学、高野山大学、龍谷大学客員教授。近著に「とげとげしい言葉の正体はさびしさ 5000人のカウンセリング経験から得た精神科医の知見」(夜間飛行刊)。


【Question #06】人生の停滞期に悩んでいます

20代、30代は仕事も家庭もがむしゃらに頑張ってきました。大きな挫折を味わうこともなく、人生の基盤も築けたかなと感じています。ですが、将来がある程度見えたせいか、最近人生の限界を感じてしまうのです。どんなに頑張っても、「こんなものだろう」と諦めの気持ちもあります。理由もない人生の停滞感を解消するには、どうしたらよいのでしょうか?(45歳・鳥取県)

【Answer】自分の目標となる「人生の師匠」を見つけましょう

 
20代、30代に仕事も家庭も両方がむしゃらに頑張れる男性が、どれだけおられるでしょう。心から敬服します。

オーバーヒートになっていないかは、心配になります。

というのも現代において、社会生活をつつがなく完璧に送っている人は、私のような立場の人間からいうと「過剰適応」といって、かなり無理をしている、ストレスを抱え込んでいる方が多いからです。

つまりこの社会に完璧に適応している人は、すでに自身の心身をそうとう削っている。 

なぜならば、近代人は「今はまだ足りない、そしていつ奪われるかもしれない」という、いわば欠乏の不安にいつも苛まれているからです。

この方が「自分の人生の限界を感じる」とおっしゃっている背景には、この「過剰適応」による心身の消耗がすでに進行しているのではないか、と心配になります。

ではこのような方が、前を向くためにはどうすればよいのか。

いちばんおすすめなのは、これから先、自分はこうなりたいと思える「人生のモデル」を見つけることです。
 著作者:pch.vector/出典:Freepik

pch.vector、Freepik


仕事との向き合い方や、趣味との付き合い方、人生全体の捉え方からちょっとした仕草まで、あなたを小さく唸らせてくれるセンスの光る先輩はいないでしょうか。

もし見つかったら、なるべくその人の傍らにいて生き様を学ぶのです。

もしも周りにいなかったら、小説の中でも映画の中でもかまいません。物語の中に、「自分もこんな人生を歩みたい」「この人のような粋な振る舞いをしてみたい」と思える人を見つけましょう。

そういうモデルに出会えると、自分の未来に向かってやるべきことが見えてくるものです。

「この人のようになりたい」という思いから、いろいろな欲が出て自然に積極性が増してきます。その人をお手本にすればよいのですから、何より生き方が楽になります。
 

ちなみに僕の場合も、そういうモデルというよりは師匠が何人かいます。ひとりは精神科医の故・野田俊作先生。

野田先生はグループで行うカウンセリング方法の「オープンカウンセリング」を日本に先駆けて導入した、カウンセリングの天才ともいえる方です。

大学時代に野田先生のオープンカウンセリングに参加し、衝撃を受けた体験から僕のカウンセラーとしての人生は始まりました。

精神科医になってからも野田先生の背中を追いかけ、さらに人としてのあり方や人間関係の間合いなどは武術家の甲野善紀先生から学びました。

もちろん、「自分はもう十分に頑張ったからこれ以上は望まない」という生き方の選択肢があってもいい。

しばらくの間はそれこそ気ままに休息すればよいのです。
 freepik

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そして再び自分の内側から好奇心が湧いてくれば、人生を先に進めれば良いのです。

さらに言うと、これまでは業績だったり金銭的なことだったり、数字に表れることを主に、人生の指標にされてこられたのかもしれません。

仕事の成果や社会的地位までも、現代においてはすべて数字で比較検討できます。

この数字の世界はある意味公平ですが、一瞬も安定することはない、明日のことはわからない世界です。

小説や映画の主人公は、数字で表すことのできない複雑な魅力を持っています。

僕がかっこいいなと思うのは、映画なら『羊たちの沈黙』のアンソニー・ホプキンス。『ゴットファーザー』のアル・パチーノに、『ゴットファーザー PART Ⅱ』のロバート・デ・ニーロ、それに『男はつらいよ』のフーテンの寅さんこと渥美 清さん。他にもたくさんいます。
 

この人たちは何故こんなに人を惹きつけるんだろうとか、どうしてみんなから憧れられるんだろうという部分を掘り下げて、自分なりに膨らませていくのもひとつの方法です。

もしも、周りにも物語の中にも、憧れるような人はいないと感じたとしたら、それは渇望が足りない時期なのかもしれません。

逆にいうと、人生の師匠に出会いたいと渇望してさえいれば、出会うチャンスはいくらでもあるということです。

若いときには多くの人が結婚して家庭を持ちたいとか、仕事で成功したいといったさまざまな欲を持ちます。 

しかし、人生の後半になってくるほど、そうした欲はだんだんと枯れてくるものです。

だからこそ、ある程度先が見えて「人生虚しい」と思ったときが価値観変革のチャンスともいえます。 

経験を積んだ大人こそ大きな欲を持ち、自分に見合った人生を歩んでいってほしいと思います。

▶︎名越先生の公式Xはこちら!

達 弥生=取材・文 アントレース=編集

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