▶︎すべての写真を見る おいしい酒を飲むことが、海の環境保護にもつながる。「Let's☆飲酒で環境保護!」ということで、オーシャンズでは海好き、酒好きにはたまらない“海な酒”を探しはじめた。
そこでまず出会ったのが、奄美大島の海底熟成ワインセラー「トラス シーセラー(tlass SEA CELLAR)」。ワイン好きは特に注目したい新サービスが誕生した。
いまだ謎が多い「海底熟成ワイン」
2010年、バルト海に沈んでいた沈没船から、約180年前のシャンパーニュが引き上げられた。長い期間、海底に沈んでいたにも関わらず、そのシャンパンはフレッシュな味わいを維持していたという。
このトピックスは、ワインラバーの注目を集め、近年ではあえてワインを海底で熟成させた「海底熟成ワイン」が世界的広がりを見せている。
「水温、水圧、照度、潮流による振動……海中の何が影響して、ワインの熟成が進むのかはいまだ謎が多い。世界中の知見を探してみましたが、明確なエビデンスは見つけられませんでした」と語るのは、「tlass SEA CELLAR」を手がけるアイスリー代表取締役の森谷悠以さんだ。
「私たちも引き上げたワインを最新鋭の成分調査機器にかけたのですが、数値的には誤差レベルの差しか出ませんでした。それでありながら、味わいは沈める前と後で全然違っているんですね。これも海底熟成ワインの面白いところだと思っています」。
奄美大島ならではのメロワール
実際に同じワインの海底熟成前と後を飲み比べると、スパークリングの泡はよりきめ細かく、白ワインや赤ワインはアタックが柔らかく、まろやかな味わいへと変化していた。
「土や気候など、ブドウ畑の自然環境をテロワールと呼ぶように、沈める海によって味わいが変わる“メロワール”もあるのではと言われています。海底熟成ワインはまだまだ未知の部分も多いのですが、奄美大島ならではのメロワールがあるのではないかと考えています」。
奄美大島は、世界自然遺産にも認定されたほど、自然豊かな島。さらにワインを沈める瀬戸内町は、日本で唯一海峡を持ち、台風などの影響も少ないという。
海底熟成をさせる期間はわずか6カ月ほどだが、それでもここまで味に変化があるのは、豊かな海だからかもしれない。
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現在はファーストエディションとして、海底熟成ワインを販売しているが、今後はお気に入りのワインを預かり、奄美大島の海へと沈めるセラー事業を主体にするという。
おいしいうえに海の環境保護にもつながる
と、ここまで聞くと、ほかの海底熟成ワインと何が違うの?と思うだろう。
実は「tlass SEA CELLAR」を利用すると、海の環境保護にも貢献することができるのだ。
地球の表面積の約7割を占める海は、大気中のCO2の約3割を吸収している。だが、海が吸収できるCO2は限界を迎えるとも言われている。
大気中に残ったCO2は温暖化を招き、温暖化は魚の生態系を変えていく。近年「魚の獲れる量が減った」「その海域で獲れるはずのない魚が水揚げされるようになった」というのも、温暖化が一因だ。
そこで近年、世界的に推進されているのが「ブルーカーボン」だ。これは海の生態系などに取り込まれる炭素のことを表していて、海草や藻、マングローブ林などが「ブルーカーボン生態系」として注目を集めている。
「tlass SEA CELLAR」では、天井に藻場の育成プレートを設置したワインセラーの外枠をオリジナルで開発。外枠は海底に沈めたまま、内側のワインだけをダイバーが手作業で出し入れするという方法を取ることで、ワインを熟成させながら、藻場を育てることに挑戦している。
「藻場はCO2の吸収以外にも、魚が外敵から身を隠したり卵を産みつけたりする場所で、海の生態系には欠かせないものです。ただ、温暖化の影響やこれまで生息していなかった魚による食害もあって、藻場はどんどん減ってきています。
また、日本は昔から漁業が盛んだったので、あるのが当たり前だと思われていて、あまり藻場について研究をしてこなかったんですね。藻場がなくなって初めて、これまで“どんな種類の海藻が生えていたのかわからない”という状況に気づいたんです。
今回、オリジナルの什器を制作してくれた会社は、採取した海藻を培養して、海へと戻す海藻養殖技術を持っていますので、今後はこの技術を活用して、藻場の増成も行っていきたいと思っています」。
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「楽しみながら、いかに無意識にサステナブルなアクションをできるか」がコンセプトという「tlass SEA CELLAR」。
仲間と酒を楽しむなら、海の環境保全にもつながるワインを味わってみてはいかがだろうか。