井植美奈子(以下、井植) 小橋くんはプロサーファーなんですか?
小橋賢児(以下、小橋) いやいや!サーフィンは趣味です。
井植 去年、湘南に引っ越されたんですよね。やっぱり海が近いから?
小橋 はい、完全に海が理由です(笑)。コロナ禍の自粛が解除され始めたタイミングで物件を探して、今の場所を見つけました。湘南に家を持っていれば、万が一またステイホームに逆戻りしても、そこの住人として海にいけると思ったから。そのくらい海に入れないときのストレスがすごかったんですよ。その後しばらく湘南と東京の2拠点生活をしていましたが、息子が小学校に上がるタイミングで完全に湘南へ移りました。
井植 最近、湘南へ移住している人は多いみたいですね。
小橋 増えましたね。気分が切り替わるからすごくいいですよ。サーフィンでなくても、自然に包まれていることが体感できる、いい環境だと思います。
井植 小橋さんご自身のライフスタイルにも変化はありましたか。
小橋 それまで妻や子供と海に行くのは年に1〜2回程度だったのですが、引っ越してからは頻繁に行けるようになりましたね。自宅から海が見え、5分で海に行けるので、30分あったら海に入ろうという気持ちになります。その代わりジムにはあんまり行かなくなりましたけどね。
井植 すごく健康的で経済的だし、良さそうに聞こえます。
小橋 そうかも知れません。ちょっと体調が悪いときでも、30分海に入ればすごく調子がよくなるし、花粉シーズンも海の塩水で鼻うがいしたらすっきりします。塩水のデトックス作用って確かにあるなと実感しています。
井植 意外とワイルドなんですね(笑)。サーフィン目的で遠出もするのですか?
小橋 もちろん。サーフィンするためだったらどこまでも行きます(笑)。去年はモルディブに行きました。男友達10人のボートトリップで、朝から晩まで10日間毎日サーフィン。朝食と昼食時以外、1日9時間とかくらいは海に入っていました。
井植 すごい。
小橋 リーフブレイクと呼ばれる波がたつところが、海外には結構あるんですよ。岩礁に対してしっかりうねりが入ってきて、一日中いい波が割れるんです。インドネシアのメンタワイにも行きました。サーファーの聖地みたいな場所で、日本から行くだけで2日間半ぐらいかかります。
あと、パプアニューギニアもよかったです。目の前の海以外、ボロボロの宿があるだけで他に行くところがないような場所で、ひたすらサーフィン三昧。これから行ってみたいのはコスタリカです。
井植 本当にすごい。ちなみに旅にはどんなものを持っていくのですか?
小橋 サーフボードもウエットスーツも、全部持っていきます。
井植 それは大荷物ですね。私の場合、例えばスキーだとブーツは絶対に持って行くけれど、板は妥協ができるから、現地で借りることもあります。
小橋 それは井植さんが上手だからですよ(笑)。僕は自分の板じゃないとダメです。
井植 日焼け止めやボードに塗るワックスなどは、どんなものを使っていますか?
小橋 できるだけ海に優しいものを選ぶようにしています。というのも、例えばウエットスーツのメンテナンスにはどうしても柔軟剤が必要だし、そこは正直、限界があるんですよ。気を付けているのは、シャンプーをあまりしないようにすること。パーフェクトソープっていう、プロサーファーの大橋海人くんが作ったソープがあって、それだと自分の体も髪もウエットスーツも、少量かつ1回で全部洗えます。
井植 オールインワン的なタイプなんですね。
小橋 そうですね。日焼け止めに関しても、海に影響のある成分がゼロ、かつ肌をしっかり守るプロダクトというのは、なかなかないんです。でも日焼け止めはちゃんと塗らないと、本当に火傷しちゃうので使わないというのも難しい。
井植 なるほど。妥協できないラインはありますよね。そんな中でも、やっぱり自然が循環していることは意識しますか?
小橋 もちろんです。雨が降って、山を流れて、里を越えて、海に行って。そこからまた空に上がって雨になって、という循環を海にいる間は特に感じます。人はその循環の間に介在しているから、途中で何かを壊してしまえば、自分たちにもダイレクトに戻ってくるわけです。なので、できるだけ地球に優しいものを使いたい。当たり前のことですが。
井植 プロダクトの話に戻ると、最近は環境への配慮がいろんな形になっているのかなと感じています。
小橋 心ある企業家の人たちが、地球に優しく、しかもオシャレで使いやすいプロダクトにどんどん変換していっていますよね。「地球に優しいことは当たり前だし、そのほうが格好良い」というような思考にもっと変わっていくといいなと思います。
井植 本当に同感です。食も然りですね。
小橋 実は僕、過去に2年間ノンアルコールでヴィーガン、毎日2時間瞑想みたいな生活を過ごしたことがありまして……。
井植 ものすごくストイックな生活ですね。
小橋 そういう経験を経て思ったのが、自分の生活がストイックになりすぎると、今度は人生が楽しめなくなるということ。食に関しては美味しくてオーガニックだったらとてもいいけれど、オーガニックだからという理由で美味しくないものを我慢して食べるのは続かない。心が喜ばないものは、結局、地球も喜ばない気がします。
井植 そのとおりだと思います。美味しくて楽しいことが、続ける原動力になります。うちのNGOでは過去13年間、毎年1回、地球に優しいサステナブルなシーフード「ブルーシーフード」を美味しく楽しもうというコンセプトのレセプションを続けています。小橋さんも去年来てくださいましたね。
話題に挙がったレセプションの模様。手前、右から2番目には小橋さんの姿も。
小橋 はい。まさに美味しくて楽しい集まりでした。僕がそこで思い出したのが、魚は切り身の状態で海を泳いでいると思っている子供がいるという話。魚はどこから来ているのか、その環境はどうなっているのか、背景も含めて知ることはやはり大事だなと、美味しいシーフードをいただきながらすごく思いました。
海に潜ったり、泳いでいる魚を見たり、それ以外にも自然の感じ方はいろいろあると思います。サーフィンをしている僕の場合は、たまに汚い水を思いっきり飲んでしまって、ダイレクトに感じるわけです。そうすると、海を汚すことはあかんぞって、身をもってわかります。
◇
海を守るために、自分自身が苦しんでいては本末転倒。楽しみながら地球に優しいことがいちばんいい。楽しみながら地球のために何ができるか、小橋さんや井植さんは考えながら実践していた。