このような、あまりにもロマン溢れる逸話が日本全土の規模で、フルカラーのビジュアルを伴ってぎっしりと詰め込まれているのだ。良い意味で途方もない書籍である。
しかし、オカルト好きとは(筆者を含めて)欲深い生き物である。扱うジャンルが多岐にわたっているおかげで、更に多くを求めてしまうのかもしれない。本書を手に取った人は、興味のあるトピックこそ、より詳しく知りたいと思うのではないだろうか。
ではどうすればいいか。実際に旅に出ればいい。忘れてはならないが、本書は『地球の歩き方』、でもある。当然、ガイドブックの役割もきちんと果たしているのだ。
具体的には、本書ではミステリースポットを巡る一泊二日の旅、そのモデルルートが地方ごとに用意されている。たとえば関西地方ならば、一日目は琵琶湖から始まって京都の寺社を巡り、二日目は大阪の古墳群を訪れる、といった具合だ。
「駆け足で巡る」と書かれているように、少々タイトなスケジュールに思えるので、自由な旅行の基礎として考えるのがいいだろう。それでなくとも、本書を読めば読むほど、寄り道したいスポットは増えていくはずである。
旅に慣れてない人への配慮も欠かしていない。本書では「パラレルワールドの歩き方」と題して旅行そのものに関する基礎知識がまとめられている(中には貨幣に関する辞書的な説明までもが含まれている。まるで初めて地球に訪れた異星人に対して解説しているようだが……)。
紹介されているスポットには、簡単なアクセス方法が併記されている。より詳しい行き方やホテル選びなどはスマートフォンなどに頼ることになるが、気になる場所への第一歩としては十分に役立つはずだ。
とはいえ、まとまった時間が取れず、旅行は難しい、という人もいるかもしれない。そのような悩みへの対応もバッチリだ。それが「アームチェア・トラベルのための書籍セレクション」である。アームチェア・トラベルとは「家にいながら旅行気分を味わう」ことを意味する。
本書の末尾には気になった場所をより深く知るために効果的な本が50冊紹介されている。このチョイスは『ムー』の色合いが非常に濃い。オカルト好きは重宝するだろう。
『地球の歩き方』と『ムー』のコラボは確かに異色だが、理にかなっているとも言える。旅にせよオカルトにせよ、どちらも土地に紐付いているからだ。そして本書は二つの要素を上手く組み合わせたうえで、『地球の歩き方』は実際の旅行を、『ムー』はアームチェア・トラベルを、という風に別々の部分をアシストしている。
もちろん両者を組み合わせることも可能だ。家で読めば読むほど旅行欲は湧き上がるだろうし、実際に行った場所を振り返るのにも本書は最適な案内になるだろう。
本書は旅とオカルト、どちらの初心者も取りこぼすことがない作りになっている。旅についての信頼性、オカルトについてのロマン、双方に対して極めて真面目に取り組んでいるからこそ、パラパラとめくるだけで知的好奇心をかき立ててくれる贅沢な一冊に仕上がっているのだ。
『地球の歩き方 ムーJAPAN: ~神秘の国の歩き方~』(2024年、地球の歩き方編集室 編、Gakken刊)
松尾優人◎2012年より金融企業勤務。現在はライターとして、書評などを中心に執筆している。