▶︎すべての写真を見る カレーが好物だという人、食欲がなくてもカレーなら食べられるという人も多いだろう。そんな身近なカレーだが、発祥地のインドでは地域によって違いがあるのをご存知だろうか?
今回、訪問したのは、南インド料理店「タンジャイミールス」。
幡ヶ谷で人気のレストランが、今年2月、経堂に2号店をオープン。この店でヘッドシェフを務めているのが、南インド出身のシャンカーさんだ。
「タンジャイミールス」のヘッドシェフであるシャンカーさん
シェフのシャンカーさんが来日したのは2010年。インドでもシェフとして働いていたが、知人に働き口を紹介してもらって来日。「タンジャイミールス」が日本で3軒目の勤め先になるという。
「日本で困ったことはあまりないね。僕はインドでも日本でも、職場と家の往復しかしないから(笑)」(シャンカーさん、以下同)。
鮮やかなグリーンとピンクを色調にした、ポップな内装も南インドを意識したものだという。
「南インドはカラフルな家が多いね。この色は、インドの実家でも使っている色。グリーンは優しい気持ちになれるから、南インドではよく使われているんだよ」。
そしてお店の一角には、シャンカーさんが信仰するヒンドゥー教の神様が祀られている。
「僕のホームタウン、タミル・ナードゥ州のタンジャーヴールはお寺がとても多いところ。この神様は1100年前ぐらいに建てられた、この地区でも最古といわれるお寺のもの。子供のころからこのお寺にお参りに行っていて、今でもインドに帰ったときは、必ず行っているよ」。
そんなシャンカーさんが育った南インドの料理とはどんなものなのか。
「北インドはナンやチャパティ、ロティなど、小麦粉で作ったパンのようなものが主食で、米はあまり食べないね。でも、南インドはビリヤニ(炊き込みご飯)も定番だし、お米をよく食べるんだよ」。
ほかにも北インドでは、肉や魚をよく食べるが、南インドは野菜がメイン。北インドのカレーはとろみがあるが、南インドのカレーはサラッとしたスープ状……と、このように同じインドでも、全く違うカレー文化が形成されているのだ。
もうひとつ、南インドの特徴的な料理が「ミールス」だ。定食を意味するこの料理は、2〜3種類のカレー、ピクルス、スープ、ライスなどをワンプレートに盛り合わせたもの。本場では、ランチに食べることが多いという。
また菜食が主流なため、レストランでは肉を使わないベジタイプと、肉を使ったノンベジタイプの2種類が用意されていることが多い。実際、「タンジャイミールス」でも2種類がメニューに載っている。
(左上から時計回りに)チキンをスパイスにまぶした「ドライチキンカレー」、3種類から選べる「メインカレー」、野菜と豆のカレーでインドでは味噌汁的存在の「サンバール」、タマリンドとスパイスを効かせた酸味のあるスープ「ラッサム」、豆と野菜のココナッツ煮「クートゥ」、辛くてしょっぱいインド式漬物「レモンピックル」、タミル州のご飯「ポンニライス」、豆の揚げせんべい「アッパラム」が一皿に載っている。
「ノンベジミールス」2500円 今回オーダーしたのは、肉を使ったノンベジタイプ。
「スプーンで食べるよりも手で食べたほうが、具材とお米がよく混ざって、おいしいよ」とシャンカーさん。店内にはインド流の手で食べる方法も紹介されているので、ぜひトライしてみてほしい。
アッパラムを砕いて、ふりかけのようにご飯にかけたり、カレーとラッサムを混ぜ合わせて酸味を効かせてみたり……皿の上でそれぞれを自由に混ぜ合わせ、味変や自分好みの味を探っていくのも、ミールスの楽しいところだ。
「ミールスは、ご飯やスープをおかわりできるお店が多いね。1回だけのところもあるけれど、うちはディナーならおかわり自由だよ」(ランチは+100円でご飯と右上2つの「サンバル」と「ラッサム」を1回おかわりできる )。
「プレーンドーサ」1100円 こちらは南インドの代表的な主食のひとつ「ドーサ」。豆と米を発酵させて作った生地をクレープのように巻いたもので、運ばれてくると、まずはその大きさに驚く。
ココットのような容器の底で、きれいに生地を広げていく様は、まさに職人芸。
「ココナッツチャツネ」と「トマトチャツネ」、ミールスにものっていた酸味のある「サンバル」がついているので、ディップのようにつけながら食べるのがおすすめだ。
サイズは大きいものの、食感は軽く、まさにクレープのよう。それでいて、原料は米と豆というのだからヘルシーだ。これをつまみながら、飲む酒もまたウマそう。
ちなみにインドは酒も豊富で、ビールやテキーラ、ワインまである。これらの酒を楽しみながら、インド気分に浸るのもいいだろう。
「マトンチュッカ」1300円 その酒にピッタリなのが、こちら。マトンをドライグレイビーソースで炒めたもの。スパイシーな一品で、ビールと相性抜群だ。
さて、インドには「インディアンチャイニーズ」という料理ジャンルがあるのをご存知だろうか?
これはインドに移住した中国人から中華料理が広まる過程で、インド人の味覚に合わせて、スパイスなどでアレンジが加わったもの。
「インドでも中華はすごい人気なんだよ」と話すシャンカーさんが手がけるインディアンチャイニーズも味わうことができる。
「ゴビ マンチュリアン」900円 こちらの料理は、揚げたカリフラワーを炒めたもので、インドでは定番料理だという。スイートチリのような甘さとピリっとした辛さが絶妙のバランスで、クセになる味だ。
驚くのは、揚げたカリフラワーの食感。エビのようなプリッとした弾力があり、これが本当にカリフラワーなのかとインド中華の奥深さを感じる。
インドでも日本でも、シェフとして働いてきたシャンカーさん。どんなところに日本とインドとの違いを感じているのだろうか。
「インドと日本では、野菜もスパイスも味が全然違う。ここで南インドと同じ味を再現するのは難しかったね。マサラやサンバルパウダーは日本でも売っているけど、インドのものとは香りが違う。
だから、これらのスパイスや、日本で手に入らないドラムスティック(モリンガ)などは、インドから取り寄せているよ」。
お腹もいっぱいになったところで、最後に忘れずチェックしてほしいのが、カウンターに並べられた南インドのおやつ。
ココナッツのケーキや、スパイスとハーブを効かせた酒にぴったりのスナック菓子など、これらも全てシャンカーさんの手作り。スナック菓子は、細い生地から全て手作りをしているというほどのこだわりようだ。
どのお菓子も素朴な味わいながら、絶妙のスパイス感で、家族へのお土産にしても、喜ばれること間違いなし。
奥深いインドのカレー文化と、南インドの料理を経堂で楽しんでもらいたい。
タンジャイミールス 経堂店 住所:東京都世田谷区経堂2-3-9電話:03-3429-8810営業:11:00〜15:00(14:30 L.O.)、18:00〜22:00(21:30 L.O.)定休日:不定休