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2024.06.11

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「北と南では食べるカレーが違うんだ」南インド出身シェフが経堂で伝える母国の食文化



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カレーが好物だという人、食欲がなくてもカレーなら食べられるという人も多いだろう。そんな身近なカレーだが、発祥地のインドでは地域によって違いがあるのをご存知だろうか?

今回、訪問したのは、南インド料理店「タンジャイミールス」。

幡ヶ谷で人気のレストランが、今年2月、経堂に2号店をオープン。この店でヘッドシェフを務めているのが、南インド出身のシャンカーさんだ。

「タンジャイミールス」のヘッドシェフ・シャンカーさん

「タンジャイミールス」のヘッドシェフであるシャンカーさん


シェフのシャンカーさんが来日したのは2010年。インドでもシェフとして働いていたが、知人に働き口を紹介してもらって来日。「タンジャイミールス」が日本で3軒目の勤め先になるという。

「日本で困ったことはあまりないね。僕はインドでも日本でも、職場と家の往復しかしないから(笑)」(シャンカーさん、以下同)。



鮮やかなグリーンとピンクを色調にした、ポップな内装も南インドを意識したものだという。

「南インドはカラフルな家が多いね。この色は、インドの実家でも使っている色。グリーンは優しい気持ちになれるから、南インドではよく使われているんだよ」。



そしてお店の一角には、シャンカーさんが信仰するヒンドゥー教の神様が祀られている。

「僕のホームタウン、タミル・ナードゥ州のタンジャーヴールはお寺がとても多いところ。この神様は1100年前ぐらいに建てられた、この地区でも最古といわれるお寺のもの。子供のころからこのお寺にお参りに行っていて、今でもインドに帰ったときは、必ず行っているよ」。



そんなシャンカーさんが育った南インドの料理とはどんなものなのか。

「北インドはナンやチャパティ、ロティなど、小麦粉で作ったパンのようなものが主食で、米はあまり食べないね。でも、南インドはビリヤニ(炊き込みご飯)も定番だし、お米をよく食べるんだよ」。

ほかにも北インドでは、肉や魚をよく食べるが、南インドは野菜がメイン。北インドのカレーはとろみがあるが、南インドのカレーはサラッとしたスープ状……と、このように同じインドでも、全く違うカレー文化が形成されているのだ。



もうひとつ、南インドの特徴的な料理が「ミールス」だ。定食を意味するこの料理は、2〜3種類のカレー、ピクルス、スープ、ライスなどをワンプレートに盛り合わせたもの。本場では、ランチに食べることが多いという。

また菜食が主流なため、レストランでは肉を使わないベジタイプと、肉を使ったノンベジタイプの2種類が用意されていることが多い。実際、「タンジャイミールス」でも2種類がメニューに載っている。

(左上から時計回りに)チキンをスパイスにまぶした「ドライチキンカレー」、3種類から選べる「メインカレー」、野菜と豆のカレーでインドでは味噌汁的存在の「サンバール」、タマリンドとスパイスを効かせた酸味のあるスープ「ラッサム」、豆と野菜のココナッツ煮「クートゥ」、辛くてしょっぱいインド式漬物「レモンピックル」、タミル州のご飯「ポンニライス」、豆の揚げせんべい「アッパラム」が一皿に載っている。

(左上から時計回りに)チキンをスパイスにまぶした「ドライチキンカレー」、3種類から選べる「メインカレー」、野菜と豆のカレーでインドでは味噌汁的存在の「サンバール」、タマリンドとスパイスを効かせた酸味のあるスープ「ラッサム」、豆と野菜のココナッツ煮「クートゥ」、辛くてしょっぱいインド式漬物「レモンピックル」、タミル州のご飯「ポンニライス」、豆の揚げせんべい「アッパラム」が一皿に載っている。


「ノンベジミールス」2500円

今回オーダーしたのは、肉を使ったノンベジタイプ。

「スプーンで食べるよりも手で食べたほうが、具材とお米がよく混ざって、おいしいよ」とシャンカーさん。店内にはインド流の手で食べる方法も紹介されているので、ぜひトライしてみてほしい。



アッパラムを砕いて、ふりかけのようにご飯にかけたり、カレーとラッサムを混ぜ合わせて酸味を効かせてみたり……皿の上でそれぞれを自由に混ぜ合わせ、味変や自分好みの味を探っていくのも、ミールスの楽しいところだ。

「ミールスは、ご飯やスープをおかわりできるお店が多いね。1回だけのところもあるけれど、うちはディナーならおかわり自由だよ」(ランチは+100円でご飯と右上2つの「サンバル」と「ラッサム」を1回おかわりできる )。



「プレーンドーサ」1100円

こちらは南インドの代表的な主食のひとつ「ドーサ」。豆と米を発酵させて作った生地をクレープのように巻いたもので、運ばれてくると、まずはその大きさに驚く。



ココットのような容器の底で、きれいに生地を広げていく様は、まさに職人芸。

「ココナッツチャツネ」と「トマトチャツネ」、ミールスにものっていた酸味のある「サンバル」がついているので、ディップのようにつけながら食べるのがおすすめだ。

サイズは大きいものの、食感は軽く、まさにクレープのよう。それでいて、原料は米と豆というのだからヘルシーだ。これをつまみながら、飲む酒もまたウマそう。



ちなみにインドは酒も豊富で、ビールやテキーラ、ワインまである。これらの酒を楽しみながら、インド気分に浸るのもいいだろう。



「マトンチュッカ」1300円

その酒にピッタリなのが、こちら。マトンをドライグレイビーソースで炒めたもの。スパイシーな一品で、ビールと相性抜群だ。



さて、インドには「インディアンチャイニーズ」という料理ジャンルがあるのをご存知だろうか?

これはインドに移住した中国人から中華料理が広まる過程で、インド人の味覚に合わせて、スパイスなどでアレンジが加わったもの。

「インドでも中華はすごい人気なんだよ」と話すシャンカーさんが手がけるインディアンチャイニーズも味わうことができる。



「ゴビ マンチュリアン」900円

こちらの料理は、揚げたカリフラワーを炒めたもので、インドでは定番料理だという。スイートチリのような甘さとピリっとした辛さが絶妙のバランスで、クセになる味だ。

驚くのは、揚げたカリフラワーの食感。エビのようなプリッとした弾力があり、これが本当にカリフラワーなのかとインド中華の奥深さを感じる。



インドでも日本でも、シェフとして働いてきたシャンカーさん。どんなところに日本とインドとの違いを感じているのだろうか。

「インドと日本では、野菜もスパイスも味が全然違う。ここで南インドと同じ味を再現するのは難しかったね。マサラやサンバルパウダーは日本でも売っているけど、インドのものとは香りが違う。

だから、これらのスパイスや、日本で手に入らないドラムスティック(モリンガ)などは、インドから取り寄せているよ」。

お腹もいっぱいになったところで、最後に忘れずチェックしてほしいのが、カウンターに並べられた南インドのおやつ。



ココナッツのケーキや、スパイスとハーブを効かせた酒にぴったりのスナック菓子など、これらも全てシャンカーさんの手作り。スナック菓子は、細い生地から全て手作りをしているというほどのこだわりようだ。

どのお菓子も素朴な味わいながら、絶妙のスパイス感で、家族へのお土産にしても、喜ばれること間違いなし。

奥深いインドのカレー文化と、南インドの料理を経堂で楽しんでもらいたい。
タンジャイミールス 経堂店


住所:東京都世田谷区経堂2-3-9
電話:03-3429-8810
営業:11:00〜15:00(14:30 L.O.)、18:00〜22:00(21:30 L.O.)
定休日:不定休


日下部美沙=写真 林田順子=取材・文

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