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水原 最近、空き家や廃墟が気になっています。特に地方は若い人が減って、おじいちゃん、おばあちゃんがすごく頑張っている。そういう光景を目にするたび、どうにか盛り上げていく方法はないのかなって考えます。話があっちこっちに飛んでしまってすみません(笑)

井植 全然そんなことはないと思いますよ。希子さんがキレイな海、健康な地球のための持続可能な未来を見据える視点を持っているからこそ感じるのでしょう。空き家問題もまた、地域社会の持続可能性の話ですから。

ところで、希子さんは今、アメリカにいらっしゃることが多いのですか?

水原 はい。行ったり来たりしていますが、最近ロサンゼルスに住み始めました。

井植 そうなんですね。私は元々ニューヨーク在住で、携わる海洋環境保護NGOのファウンダーがサンフランシスコにいるので、アメリカには毎年行っているんですよ。アメリカは近いようでいて、考え方も進み方も全然違ったりしますよね。日本を離れてみて、改めていかがですか。

水原 アメリカはめちゃくちゃ極端だと感じます。普段よく行くショッピングモールはペットボトルだらけだし、ゴミも多いし。ゴミを分別したとしても、結局、日本と同じで全部燃やされて、リサイクルに回ってない話を聞いたりもします。もちろん自分で工夫してサステナブルな生活を送っている人もいますし、私がまだ知らないだけかもしれないですけど、まだまだなのかな……と感じます。

ニュージーランドのスーパーにて。卵も紙パックだ。/水原さん提供

ニュージーランドのスーパーにて。卵の包装もプラではなく紙パックだ。/水原さん撮影


というのも、ニュージーランドに行ったとき、リサイクルのレベルが高くてびっくりしたんです。スーパーマーケットにはプラスチックのペットボトルがほとんど見当たらなくて、ほぼすべてガラス瓶。もしペットボトルを選んだとしても、分別がものすごく細かくて、捨てるときは蓋の色まで分けています。リサイクルにちゃんと回ることがわかっているから、罪悪感が違う。コンポスト※も当たり前に普及しているし。世界に目を向けると、先を行っている国がたくさんありますね。

※家庭から出た生ごみを土と混ぜて入れることによって、土の中の微生物等の働きで堆肥(compost)に変えること。また、「堆肥をつくる容器(composter)」を指すことも。

井植 確かに国によって全然違います。私は先月、ヨーロッパを仕事で3週間ほど回っていたのですが、もはやペットボトルはどこに行っても見かけません。ホテルに備え付けのお水も、ガラスの瓶か紙っていうのが当たり前。カードキーも木製なんですよね。

水原 ヨーロッパは確かにそうですね。

井植 ボリュームで考えると小さなことでも、人々の意識を導くという意味で、ガラス瓶も木のカードキーもシンボリックなものです。希子さんが開発なさっているキークス(kiiks)の商品も、メッセージ性がすごく強いですよね。

水原 ありがとうございます。本当に未熟ですけど、海のこと、環境のこと、地域の活性化、それらの総合的なメッセージを、日本の人たちのみならず海外の人たちにもなんとか伝えたいと思ってやっています。自然からの豊かなインスピレーションを通して、いろんな文化を守り、ひいては日本を盛り上げることにつながっていったらいいなと考えています。

水原さんが手掛ける、キークスのハマナスローズバーム。日本在来種の野バラ「ハマナス」を用いて制作し、体はもちろん、顔や髪などにも使えるマルチバームだ。

水原さんが手掛ける、キークスのハマナスローズバーム。日本在来種の野バラ「ハマナス」を用いて制作し、体はもちろん、顔や髪などにも使えるマルチバームだ。/Photo by Daiki Tateyama


井植
 素晴らしい。ツールの力ってすごく大きいと思いますから。キークスは今、バームを発売なさっていますが、今後はコスメにとどまらず、いろんな活動に普及させていく方向性ですか。

水原 はい。キークスは実験の場なんです。私が学びたいこと、やりたいことを実験的にやってみて、それをみんなにシェアするっていう、本当にそんな感じです。それがいい方向へとつながっていけばいいなと願っていますし、私自身がこのブランドを通してたくさん勉強させてもらっています。

井植 希子さんは、洋服のブランドもやっていらっしゃるんですね。

水原 はい。オッケー(OK)っていうブランドです。当初はサステナビリティのことをまったく意識せず、かわいい服をつくりたいっていうシンプルなモチベーションで始めたんですけど、ここ数年ですべて環境に優しい生地を使うようにシフトしました。シーズンでの展開もしていません。なので利益はあまり出ないのですが、それも含めてメッセージを伝えるひとつのツールとなればいいかなと思っています。



例えば今、横浜の衣類ゴミを回収して、そのゴミから糸をつくっているナカノ株式会社とのコラボレートで商品開発をしています。いろんな色が混ざったその糸が、私にはマーブル柄みたいな感じに見えて、とてもかわいいんです。それでバックや帽子などいろいろつくったら、すごい反響で。

井植 キークスもオッケーも入り口が違うだけで、伝えたいメッセージは同じなんですね。

水原 そうです。今、ファッションに関心を持っている人がすごく少なくなっていて、洋服が売れないんですよ。でもそれって、いいことなんじゃないかなとも思う。見た目で盛る時代じゃなくなってきていることを、肌感覚で感じています。じゃあどういうアプローチで皆さんに伝えていけるかというのを、自分なりのペースでやっています。


学んだことを自分のアクションにつなげていく。水原さんのそんな姿勢こそが、海を「まもる」ために、まずは必要なことなのかもしれない。

合六 美和=取材・文

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