ここ20年で半数以下に減少し、存在意義が問われる銭湯。その流れを変えるべく、老舗銭湯の3代目や若手経営者が新たな取り組みに挑戦している。写真は高円寺小杉湯と、小杉湯副社長の関根江里子氏(撮影:梅谷秀司)
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普通の町の銭湯で、今流行りのサウナもない
1933年から続く高円寺「小杉湯」が、4月17日に開業予定の東急プラザ原宿「ハラカド」内に2店目をオープンするという。
いわゆる「町の銭湯」は今、死に瀕していると言っていい。全国の一般公衆浴場数は3000件(厚生労働省・令和4年度衛生行政報告例)で、20年間で半数以下に減少した。利用者数の減少、施設の老朽化、後継者不足などによる転廃業が原因だ。
その銭湯が、若者とファッションの街として名高い原宿にオープンするとはどういうことなのだろうか。
まず、高円寺の小杉湯について説明していこう。
90年以上の歴史を有し、風格のある建物が国の有形文化財に指定されている小杉湯。平日は400〜600名、土日は900〜1100名の客が訪れるという。ちなみに東京都内の1浴場1日あたりの利用者数の平均は144名だ(東京都調べ)。
昭和8(1933)年創業の高円寺・小杉湯。サウナもない普通の銭湯だが、多いときで1日に1000人以上の客が訪れる(撮影:梅谷秀司)
とは言え、小杉湯は本当に普通の町の銭湯で、今流行りのサウナもない。しかしその普通がとても心地よい。
番台の接客も行きつけの店のような親しみがあり、ちょうどよい距離感だ。地下からくみ上げている水の質も魅力の一つらしい。肌あたりがやわらかく、冷水に入ったときに冷たさがやわらぐ。熱湯(あつゆ)と冷水に交互に入る入浴法が奨励されている。
地下水を利用した湯。肌あたりがやわらかく、冷水浴にも適している(撮影:梅谷秀司)
壁には、お決まりの富士山の銭湯絵だ。
銭湯好きとして注目したのが、脱衣場にあるコート掛け。冬場はロッカーを2つぐらい使わないと、着ているものや荷物が入りきらないのだが、コート掛けのある銭湯はあまりないように思う。
もっとも、繁盛している小杉湯ではロッカーを2つ使うという贅沢はできない。必需品として備えてあるのだろう。
脱衣場は広め。壁には悩み相談の掲示板など、ユニークな取り組みが見てとれた(撮影:梅谷秀司)
しかしこのように、普通の銭湯の魅力で多くの客を呼び込めるようになるまで、小杉湯はさまざまな工夫を重ねてきたようだ。小杉湯の副社長、関根江里子氏によると、3代目の平松佑介氏が家業を継いだ8年前は「斜陽産業」と呼ばれていた。客入りは地元の人を中心に、土日でも600〜700名程度だったそうだ。
もっとも、それでも東京都の平均数からすると多い。高円寺、そして隣駅の阿佐ヶ谷の周辺には銭湯やサウナ施設が数カ所ある。銭湯の風俗がまだなんとか残っている土地柄なのだろう。
一般公衆浴場、いわゆる銭湯はかつて衛生的な生活の維持に欠かせない施設だった。そのため、料金は戦後以来「物価統制」を受けており、都道府県により上限が決められている。東京都は520円だ。毎日水、燃料を大量に要する銭湯において、平均的な144名の売り上げでは経営が厳しいだろうことが想像できる。
自宅の風呂が普及した現代において、生活に必須とは言えなくなった銭湯は、存続をかけて需要の喚起を模索しなければならなくなった。小杉湯では先代から、地元のヨガサークルなど、地域の集まりに営業時間外の場所を提供し始めている。
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