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アイデアで広告主の許諾を獲得

リガレッタが目指すのは、ずばり本質を追求するハイブランドだ。その理由について、守田は次のように説明する。

「屋外広告のアップサイクルは、どうしてもグッズ制作などの一過性のキャンペーンが多い。長く続けていくためには、ただのブランドではなくハイブランドをつくらなければならないと思いました」
 


アップサイクルするバナーフラッグは、合成繊維を原料にしたスウェード調の高級感のある素材でつくられている。だからこそ、ブランド設計を丁寧に行えば「みんなが憧れるようなハイブランドにできるのではないか」と考えた。

ただ、商業化するにあたっては超えなければならないハードルがあった。まず、バナーフラッグ広告の知的財産権は広告会社や制作会社に帰属するため、知的財産権の問題をクリアする必要がある。また、リガーレにとってクライアントである広告主の広告を商品として活用することになるので、許諾を得る必要もあった。
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「通常バナーフラッグは、掲出の実務を担当する業者が責任を持って回収し、処分までを行うケースが多い。知財について慎重な扱いが必要なので、アップサイクルは進んでいませんでした」(守田)
 

こうした課題を解決するため、守田は知財を隠すための幾何学模様の地紋を制作。広告の上にこの地紋をプリントすることで、錯視によって下地のデザインが隠れつつも色彩は残る、ユニークな生地ができた。

ヒントを得たのは、金融機関からのダイレクトメール。個人情報が透けて認識できないようにするための「柄」を見て着想したという。そうして制作した生地を、リガレッタでは「まちの物語が沁み込んだ素材」と呼んでいる。

 バナーフラッグの上に千鳥格子の地紋をプリントした生地

 バナーフラッグの上に千鳥格子の地紋をプリントした生地


なお、デザインは地紋ジェネレータを使って制作。そこには、「ひとりのデザイナーに著作権を帰属させない」という狙いがある。仮に守田がブランドを離れることになっても、同様の手法でアップサイクルできるようにするため。そして、リガレッタのアイテムを購入した人が誰かに譲る、あるいはリメイクして販売しようとしたときに、新たな権利問題が発生しないようにするためだ。

「廃棄物の問題はこれからも発生する。その再利用を自分の手の届く範囲だけでやると本質的な問題解決にはならない。持続可能性と拡張性を見据えたルールづくりも重要だと考えています」(守田)

 広告ならではの色鮮やかさを生かしたコート(red/yellow)/9万7900円(受注販売)

広告ならではの色鮮やかさを生かしたコート(red/yellow)/9万7900円(受注販売)

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継続できるブランドに


リガレッタは、2023年8月に丸の内の「Have a Nice TOKYO!」にて期間限定で展示販売会を開催。その反響を受けて、12月にも同所で2回目の展示販売会を実施した。

購入者は、大手町・丸の内・有楽町エリアのビジネスパーソンが中心。まちで目にしたことのある広告がファッションアイテムにアップサイクルされていることに、驚きと親しみを感じる人も多いという。
 
老若男女問わず使用できる名刺入れも人気商品のひとつ。「名刺入れ」(red/yellow/sky blue)/1万4300円(店頭販売)

老若男女問わず使用できる名刺入れも人気商品のひとつ。「名刺入れ」(red/yellow/sky blue)/1万4300円(店頭販売)


12月に新しく発売したミニトートバッグ(千鳥格子)/4万2900円(受注販売)

12月に新しく発売したミニトートバッグ(千鳥格子)/4万2900円(受注販売)



2回の展示販売会を終えて、企業や自治体からの問い合わせも多数あった。
 
「まちを起点にしたブランドは世界でも希少だと思います。Ligarettaはまちづくりのひとつとして展開しているので、人々にリガレッタの商品に込めたストーリーを知ってファンになっていただき、そこに大丸有のまちづくりへの想いを感じていただくことが真の目的です。今年は我々だけでなく、まちで働く人や訪れる人と一緒にブランド構想を考え、関わってもらいたいと思っています。例えばワークショップを通してリガレッタの取り組みへの理解を深めたり、商品企画を考えたり。まちの中でLigarretaを育てていけたらと思っています。」(長谷川)
 


今後の展望について語るとき、守田は「継続すること」を強調する。
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「大丸有エリアにバナーフラッグを掲出する広告主の方々が、最終的にリガレッタで商品化するところまでを視野に入れてもらえるような、そんなブランドになりたい。それがクールなことだと考えてもらえると素敵ですよね」

現在は、バナーフラッグのアップサイクルに取り組んでいるが、「まち由来の素材」はそれだけではない。イベントで使用する什器など、アップサイクルする資材のバリエーションも増やしていく予定。

守田は、リガレッタのような「まちの物語が沁み込んだ」ブランドが、他のエリアでも生まれることを願う。ブランドが成長し、そのまちに集う人々の誇りになれば「バナーフラッグをアップサイクルしたファッションブランド」を超える大きな存在になれるはず。

リガレッタの紡ぐ物語は、少しずつまちに沁み込み始めている。



文=尾田健太郎 編集=田中友梨 撮影=小田光二
Forbes JAPAN=提供記事

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