福山市の養殖牡蠣が市販される前に、開発を行っていた頃。/写真は小林さん提供。
井植 漁業と観光を結びつけたら楽しいと前からお話ししてましたよね。小林さんの地元は、牡蠣の養殖も盛んだとか。
小林 そうなんです。もともと海苔の養殖が盛んな地域でして、一緒に牡蠣の養殖もやってみようと十数年前に提案したところから始まりました。実際、やってみたらすごくいいものができた。広島の牡蠣は垂下(スイカ)式という、イカダから海中にロープでぶら下げる方法がよく知られていますが、福山で採用しているのはシングルシードといって、牡蠣をケースに入れて育てるやり方です。生で食べられるように殻のきれいな牡蠣ができるので、東京から友達が来たら、漁船に一緒に乗って、その場で剥いて瀬戸内のレモンを絞って食べます。
牡蠣の養殖場で、牡蠣の剥き方を漁師さんに教わっている様子。/写真は小林さん提供。
井植 牡蠣とレモン、どちらも瀬戸内産。
小林 これがめちゃくちゃ美味しいんです。あと、行き来する漁船の中での漁師さんとの会話も面白いんですよ。彼らは職人気質というか、最初は無口だったりするんですけど、実際に牡蠣を引き揚げて、一緒に食べて「美味しい!」とコミュニケーションをとるうちに打ち解けて、帰る頃には缶コーヒーを差し入れてくれたりして、すごく優しい方ばかりです。自分たちの仕事にも「特別な価値があるということに気付けたことがうれしかった」と、あとでその漁師さんと話した時におっしゃっていました。これもダイバーシティだと思うんです。
井植 いい話です。地域の外から人が来てくれると、お互いに気付くことがありますね。
毎年ゴールデンウィーク前後に開催される福山市 鞆の浦の鯛網。漁師さんたちに教わりながら地引網で鯛を獲る。/写真は小林さん提供。
小林 新しい何かが生まれるきっかけは、人と人との交流にあると思います。今、地元の人たちと、海の真ん中に浮かんでいるイカダの上で、バーベキューをやってみようと話しています。漁師さんたちが獲った魚を入れておくいけすみたいなところがあるんです。ゆくゆくは海上レストランにできたら面白そうだなと。
井植 格好いい!
小林 もちろん、牡蠣だけでなく海苔も本当に美味しいんですよ。刈り獲った海苔でそのまま佃煮を作って、白いご飯にのせて食べる。美味しいから、お土産にも買って帰ったり。
井植 さらにお取り寄せでリピートしたり。
小林 そうそう。地域の人にとっては生業として所得が上がっていくし、いわゆる関係人口が増えていきます。ただ観光するだけではない、多様な関わりが生まれるというのはいいですね。
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多様な人が集まって、海との関係をちょっと良くする。しかもそれが楽しいとなれば、持続的な活動となっていく。観光を通した海での体験、可能性は無限大だ。