酒飲みなら、飲みすぎて昨日の記憶があやふや……なんて経験があるだろう。だが、記憶を失くすまで飲むのは精神疾患につながるリスクが高まるらしい。
今回は上林記念病院のアルコール治療センター長、小川陽之医師に酒と精神の関係性について話を聞いた!
話を聞いたのはこの人!
小川陽之⚫︎精神保健指定医、アルコール依存症臨床医学研修修了。現在は上林記念病院で精神心療科医長、アルコール治療センター長を務める。
酒好きとアルコール依存症の境界線
――そもそも、お酒は精神にどんな作用をもたらすのでしょうか? 良い作用としては、リラックス効果があると思います。一方で危険なのは、モヤモヤしていたり、イライラしている気持ちのストレスを、お酒を使って自己治療している場合です。
――仕事で嫌なことがあると、飲みに行くことがあります……。 慢性的なストレスを抱えていて、発散するのにお酒の力を借りようとしている人、昂った気持ちを鎮めようとして寝酒を飲んでいたのに、飲まないと眠れなくなっている人。こういう方たちは、どんどん飲む量が増えていって、結果アルコール依存症になるリスクがあるんです。
――酒好きとアルコール依存症の境界線ってどこにあるんでしょう? これはすごく難しいんですね。一般的な診断基準もあるのですが、例えばお酒を飲まないと眠れない、お酒に強くなった、この2つの条件に当てはまるだけでも、アルコール使用障害という診断基準を満たしてしまうんです。
――その基準、厳しくないですか!? そうなんです。これだけだと多くの人が当てはまってしまいますよね。なので、病院で治療が必要なレベルというのは、自分や周囲に著しい迷惑をかけている、または生活が成り立たなくなってきているような方になるかなと考えています。
――酒乱ってことですか? 酒乱だと、一般的には“飲んだときに酒グセが悪い”という意味になります。そうではなく、実はアルコールによる性格変化が起こる場合があるんです。
依存症の人はシラフでも影響を受けていて、さらにお酒によって怒りっぽくなる、疑い深くなる、そして鬱のようになる。
こういう方は病院での治療を考えたほうがいいでしょう。アルコール依存症は精神疾患を併発しやすいですから。
――それはどっちが先なんでしょうか? どちらとも言えます。アルコール依存症が元で精神病のような症状が出る方もいらっしゃいますし、躁と鬱を繰り返す双極性障害を抱えていた人が、酒に走って依存症になるケースもあります。
例えば、鬱が疑われる患者さんで、お酒を結構飲まれている方だった場合、薬を処方する前に、まずは1カ月ほどお酒をやめられないかという話をします。断酒を続けられないという方はアルコール依存症の可能性が高いですし、お酒をやめても気持ちに変化がない場合はうつ病と判断します。
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