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海水温1度の上昇が、魚に10倍の影響をもたらす



「いま注視すべき海の問題は、大きく分けて2つ。ひとつは海水温の上昇、もうひとつは海洋ゴミです」(鈴木香里武さん。以下カッコ内すべて)。

どちらもニュースでよく聞く話だが、実際に肌で感じる機会は少なく、途方に暮れがちな問題である。

「地球温暖化の影響により、海水温はこの100年で1度上昇しています。たかが1度と思われるかもしれませんが、魚は人間の10倍も温度変化に敏感だと言われているんです。

平たく言えば、彼らにとっては水温が10度も上がったことになる。そうなれば、海の生態系は確実に変わりますよね」。

図の青丸は各年の平年差を、青の太い実線は5年移動平均値を表します。赤の太い実線は長期変化傾向を表します。平年値は1991年〜2020年の30年間の平均値です。(気象庁「海面水温の長期変化傾向(日本近海)」より)

気象庁によると、日本近海における2023年までのおよそ100年間にわたる海域平均海面水温(年平均)の上昇率は、+1.28℃/100年になる。(気象庁「海面水温の長期変化傾向(日本近海)」より)


実際、香里武さんは海水魚の生態系の変化を目の当たりにした。

「つい最近のことですが、深海の底曳き網に“マアジ”がかかっているのを見たんです。初めて見る光景で、さすがに驚きました。

マアジって、基本的に海の表層域に生息する魚なんですよ。それが、海面の温度が高くなったことで、300〜500メートルの深海に潜るようになった。水温の上昇でここまで変わるのか、と痛感しましたね」。



マアジのように海面から下へ縦に移動する魚もいれば、南から北へ横に移動する魚もいる。値段が高騰し、手が届きにくくなった印象のあるサンマがそれだ。

「サンマって年々値段が高くなってますよね。原因は不漁だと言われてますが、必ずしもサンマの数が減ったというわけではなく、回遊ルートが変わったのが大きな原因です。もともと水温の低い海域を好む魚として日本近海にいたのに、水温の上昇で北上しているんです。

漁師さんからすると、昨今の燃料費の高騰もあって、遠くまで獲りに行っても商売として成り立たないとなったのでしょうね」。

サンマだけでなく、ほかの海水魚も北上し、ここ10年で捕獲量に異変が起きている。たとえば、岩手県/シイラ(10倍増)、宮城県/タチウオ(500倍増)・サバ(1100倍増)、福島/トラフグ(15倍増)など。

これまでの生産水域ではない北の地域で増加しているのだ。逆に言えば、名産だった魚が獲れづらくなっている地域もあるということ。地球温暖化の影響は私たちの食卓にじんわりと、そして確実にやってきている。


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