「職人に弟子入りできる宿」のオープン
©️Kouske Mae
この町が好きで、職人が好きで、井波彫刻が好き。山川さんは、もっと多くの人にこの魅力を伝えたいと思い、2016年に〈Bed and Craft〉という宿をオープンしました。
「南砺市は石川県との県境で金沢市が近く、南に行くと白川郷もあります。それらの場所にバスで旅行に行く時に、井波にも立ち寄るコースのツアーもいくつかあるんです。井波の八日町通りという目抜き通りは、町屋が並んでいて京都のような雰囲気です。瑞泉寺という大きなお寺もあり、町のメインの観光スポット。
それらを見るために、ツアーで来たお客さまは大体30分ほど滞在してくれます。しかし彫刻を買ってくれる人はほとんどいません。作品は一個30万円から、高いもので100万円くらいするものもあります。たった30分の滞在で、そんな高価なものを買いませんよね。
僕はこの滞在時間を、24時間にできないかと考えました。井波を立ち寄る町ではなくて、目的地にしてほしい。そうなると町の機能として足りないのは、宿です。ここに宿ができたらいろんな工房巡りをしたり、職人と話をしたりする時間が持てるようになる。今すぐに彫刻を買わなくても、『いつかこの人の作品が欲しい』と思ってもらえる関係性がつくれるのではないかと考えました」
この宿の特徴は、職人に弟子入りする体験ができること。職人の工房に行って木彫刻や漆器などを自分で作ることができます。
「作家さんの工房で直接手解きが受けられます。当初、僕たちは1人6000円と値段を設定しました。日本人の友人からは高いと驚かれたんです。『木のスプーンなんて量販店で買ったら500円で買えるのに』と。でも、それはものの価値しか見ていないから高いと感じたのではないでしょうか。
始めたばかりの頃は海外からのお客さまがほとんどで、逆に彼らからは『この体験が6000円でいいのか』と言われました。日本のプロフェッショナルな職人と3時間も一緒にいられて、話も聞けて、一緒にものづくりもできる。その空間や体験に価値を感じてくれていた。今は1人1万円でやっています。最近は日本のお客さまも増えてきていて、旅行やリアルな体験に対する価値観が変わってきているのを感じます」
〈Bed and Craft〉は、イメージの異なる6つの宿で構成されている。リピーターの方は、同じ宿に泊まる方や前回とは違う宿に泊まる方など、それぞれに楽しみ方があるそう
町に点在する6つの宿は、古民家をリノベーションしていて、それぞれ彫刻家、漆芸家、陶芸家、作庭家など井波のアーティストとコラボレーションしています。館内には作品が飾られ、一つひとつの宿が各作家のギャラリーのようです。
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