言葉③どうせ立ち向かうなら、楽しく立ち向かう。筋トレと同じで、つらい環境が筋肉になる
Q:楠本さんは、アイデアのことを「いたずらを作る」と表現されているのが印象的です。仕事をする上での考え方だと思うのですが、周りを楽しませることを楽しむようになったのは、いつ頃からですか? 基本的に博多もんのミーハーっていうのがベースにあるのだと思うのですが(笑)、それだけだと、苦しい時に「パコン」と折られて「シューッ」となるわけです。
新卒で勤めた会社ではいろいろ経験させてもらいました。入社後に広報室へ配属され、1年目の途中から社長秘書を担当して役員の方々とも接点が多かったのですが、時として正義を通すための理不尽さみたいなものもありました。
でも、その 1つ1つをネガティブに考えていたら生き残れない。毎日がゲームのような感じで「よし、今日も1面クリアできた! でも、また明日も一気に敵が来るぞ」と。歴史で考えてみると、我々人類は過去ずっとこのような状況に直面し続けてるんだよな……というようなことを社会人になって学んだんですよ。
Q:壁を乗り越え続けるためには、その状況を楽しむ余裕が必要だと? ピンチになればなるほど人はアドレナリンが出ると思うんです。 だから、戦うべきときは思いっきり戦い、「どうせ立ち向かうんだったら楽しくやろう、このゲームをクリアしよう」という後付けのトレーニングですよね。
それは筋トレと一緒で筋肉になるはずだから、ネガティブに考えない方がいい。辛い環境にならないと筋トレなんかできないですから。
Q:最後に、THE WORDWAYは言葉を大事にしているメディアです。楠本さんが自分の人生を動かした言葉、転機になった言葉があれば教えてください。 たくさんありますが、パソナの南部さんから教えてもらった「燕雀(えんじゃく)安(いずく)んぞ鴻鵠(こうこく)の志を知らんや」という言葉です。
僕にも苦しんでいた時があって、そんな時にランチに誘ってくれて何でもないバカ話をした後に、「楠本くん、これ」ってさっと書いて渡してくれたのが、この言葉だったんです。これは、世界初の農民反乱と言われている「陳勝・呉広の乱」の際に陳勝さんが言った言葉だとされています。
陳勝さんと呉広さんは、秦の始皇帝の圧政に耐えられなくて農民反乱を起こした。結果、陳勝・呉広は討ち死にしましたが、革命が起きたということなんです。「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」という言葉の意味は、スズメやツバメが大きな翼を持っている鴻の志は分からないだろという言葉です。
これは農民である、陳勝さんが言っている言葉なんです。だから僕は勝手に、田んぼの目線でずっと生きて作業していた我々がこの先を目指そうと頑張っている言葉だと受け取ったんです。
楠本修二郎(くすもと・しゅうじろう)1962年6月8日福岡県生まれ。 早稲田大学政治経済学部に進学し、大学在学中にイベント企画運営やプロモーション事業、店舗企画や出版などに携わる。卒業後、株式会社リクルートコスモス(現・株式会社コスモスイニシア)、大前研一事務所を経て、1999年「WIRED CAFE」1号店をオープンさせ、2001年にカフェ・カンパニー株式会社を設立。2011年6月、東日本の食の復興と創造の促進及び日本の食文化の世界への発信を目的として発足した一般社団法人「東の食の会」代表理事に。飲食事業の他、地域活性化事業、商業施設のプロデュースなどを幅広く展開している。