共通言語がなくても、体験を共有できれば笑いは生まれる
編集部 YouTubeやTikTokなどお笑いに触れる環境が変わる中で、中高生の子どもたちのお笑い観が変わったなと感じることはありますか?
野村さん 子どもたちは最近テレビを観ないからね。『M-1グランプリ』も観ないし、『キングオブコント』という番組があることを知らないなんてことも普通にありますからね。そうなると共通言語がないんですよね。
矢島さん 僕らの頃は、『アメトーク』、『ロンハー』、『めちゃイケ』を見て、明日はこれを話そうって考えていたと思うんですけど、今の子はそういう共通言語が少ない。韓流アイドルが好きな子もいれば、東海オンエア、ビートルズを観ている子もいる。
共通言語がないから、すべての会話に事前説明が必要で、そうなると好きなものを話すことが面倒になってしまうことも多いみたいですよ。だけど、共通の体験自体は求めているんだろうなとは感じます。同じ習い事をしたり、体験をしたりというような。
野村さん たしかに体験の共有は求められているよね。演劇の授業をやっていると、最初は嫌がるけど、終わったらみんなで連絡先を交換しているんですよね。興味のないものでも、共通の体験ができると楽しいし、それで仲良くなれるというのはあるよね。
編集部 共通言語で笑わせるのが難しい中で、どう笑わせる?
矢島さん 原始的な笑いの一つのかたちはスポーツなんだと思う。ゴールを決めて「わーっ!」と盛り上がるじゃないですか。『人はなぜ笑うのか―笑いの精神生理学』という本があるのですが、笑いには「期待充足の笑い」、「本能充足の笑い」があると紹介されています。期待したことが叶うと、こぼれる笑いが期待充足の笑い。スポーツの歓喜がそれです。よく眠れた、おいしいものを食べたなど本能的な三大欲求を叶えると笑顔になるのが本能充足の笑い。
あと笑いには「Smile」と「Laugh」があって、ゲラゲラ笑う「Laugh」は共通言語の中でセンスのあるギミックで笑わせたりするので、かなり人為的と言えるから、共通言語があった方が良いですよね。でも、何かのミッションを達成すると快感情が生まれて笑いにつながる「Smile」や期待充足の笑いなら共通言語がなくてもできる。
野村さん 実際、野球部やバレー部の子たちってすごくよく笑うんだよね。普段から練習や試合で、体験を共有しているからなんだろうね。
逆に言うと、多様性を尊重する時代の中では、一体感を持って笑うというのが今後より難しくなると思う。そこでどう一体感を作るのかというのは教育現場での課題でもありますね。
編集部 先生や親御さんからの反応で印象的だったことはありますか?
矢島さん 僕らの授業を見てくれる先生や保護者は多いよね。質問もよく出るしね。子どもたちに伝えたいことは、大人にも響くことでもあると思います。例えば、相手が嫌なことをするのは「いじめ」、周りが迷惑することは「ふざけ」だよ、という話を子どもたちにするんですけど、それって大人のコミュニティでもあることですよね。
野村さん 笑いの違いで言うと、人のアイデアを受け入れる笑いが良い笑いで、ブロックする笑いは良くない、と言う話もします。「知らねえ」「黙れ」とかは、一瞬のノリでは面白いかもしれないけど、あなたと仲良くしたいと思える笑いじゃないよね、と。
それを聞いていた保護者の方から、「感覚としてはわかっていたけど、判断基準ができた」という声をもらったことがありますね。子どもに伝えたいことは、大人も顧みないといけないことなんだろうなと思います。
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