OCEANS

SHARE

こうしたPDCAのようなプロセスの中で、とりわけ重要になるのが「撮影」だ。秋本氏が語る。

「陸上選手は、しつこいくらいPDCAを自分で回しています。映像を見て確認し、もう1回その動作をして、ダメだと思ったらまた確認する。それをいかに高速回転でやるか。

そのためにはバックボーンとなる知識が必要です。その前提があったうえで、修正をかけていく。コーチは選手に対し、どうやって修正すればいいかを自分で把握できるようにさせていきます。

映像を見て、自分で修正していくというサイクルを自動化して回せるようになるのは結構時間がかかるので、ライオンズでは1年かけてつくっています」

選手を「正しい方向」へ導くために

コーチにとって重要な仕事は、選手を「正しい方向」に導くことだ。そのうえでポイントになるのが「表現力」である。

2023年シーズン中の取材日、ドラフト2位ルーキーの古川雄大に秋本氏が走り方を指導していた。前屈になるクセのある古川に対し、秋本氏がかけたのは「腰を押す」という言葉だった。

腰を押すことで上体が真っすぐになり、足をかく動作がなくなる。秋本氏のアドバイスを受けた直後、古川の走り方は改善された。

秋本コーチ(右)は伴走しながら新人の古川を指導(筆者撮影)

秋本コーチ(右)は伴走しながら新人の古川を指導(筆者撮影)


「古川さんは考えれば考えるほど、考えすぎるタイプです。だからあまり複雑なことは言わないほうがいい。

今日走っているとき、『やべえ。こんがらがってきた』と言ったので、『そこは全然気にしないでほしい。シンプルで、1個だけでいいです。腰を押しましょう』と伝えると、スッとゴールまで行けました。

どういう表現がその選手に合うのか。逆に、小難しく言ったほうが咀嚼して飲み込める選手もいます。いかにシンプルでわかりやすく届けるかが僕のコーチングのテーマです」

走るという練習メニューは、野球選手にとってプラスにもマイナスにも働きかねない。専門家である秋本氏は率直にそう感じている。

「ピッチャー陣が走り込むとして、目的を何に置くか。コーチが選手を追い込ませることが目的になると、動きは絶対的に壊れます。

そうして走ることが嫌いになった選手に対し、何のためにこのトレーニングをして、野球にどう活きるかをちゃんと説明すれば、『もう1本走っていいですか』と自分から走り出します。

走るのが大事なことは、わかっているはずなので。だからこそコーチは『どうすれば選手が好きになるか』を考えて、アドバイスする必要があります」


5/5

次の記事を読み込んでいます。