海が身近にある環境を愛し、誇りを抱く
海も街を形成する大切な要素である。何よりビーチに沿ってきれいな遊歩道が整備されているように、街そのものが海に向かって開けている。
大西洋に注ぐウルメア川の河口の東側はグロス地区と呼ばれ、グッドウェーブを求めるサーファーで賑わうズリオラビーチが広がっている。
西側には旧市街があり、夜の帳が下りると数多のバルを巡る諸外国からのツーリストで活況を呈す。さらにその西側にはラ・コンチャビーチとオンダレッタビーチがあるラ・コンチャ湾があり、穏やかな海であることから、ヨットや小型船舶が停泊する光景を日常的に見ることができる。
「海は私たちにとっての大切な資源です。経済効果の観点からその貴重さを紹介しますと、2018年度のサーフィンを介した経済効果は、スクールやツアーなどの観光業、サーフボードブランドなどの産業を合わせておよそ3500万ユーロ(当時のレートで約4億5000円)に達しています。
また500人以上がサーフィン関連の仕事に従事しています。これらの数字は、この小さな街にとっては十分に大きなものだといえるでしょう。
さらにサーフィンを含めたマリンスポーツ活動を提供する地元のクラブには若い世代から年配者までが所属し、街の歴史と伝統を将来へつなぐ役目も担っていると考えられています」。
マリンスポーツ愛好家でなくても、地元の人たちは海を身近に感じる環境を愛し、誇りを抱いているという。
確かに街の観光案内所に入った際に対応してくれたスタッフは、近隣を含めたサースポットの名称や波質までを教えてくれた。サーフィン経験がないのに、である。
そして市井の人々は、海水浴や日光浴を楽しみ、ビーチサイドをジョギングして汗を流し、仕事終わりになんとなく海へ足を向けるという形で、毎日のように海の心地良さを感じながら暮らしている。
こうして誰もが心地良い時間を過ごせるビーチは景観も素晴らしい。大西洋に開けたロケーションには人工的な匂いがしない。コーストラインは総じて手がつけられてないのだ。
モレノさんによれば、消波ブロックを投入するような手法はサン・セバスチャンのやり方ではないという。
過去には嵐が来て高潮が打ち寄せたことも豪雨による洪水もあった。それらを経験したうえで導入した防災対策は警報システム。監視の目を強め、被害が生じそうな際には状況を広く共有して避難なりを促す。
一方、ズリオラは自然の環境に手を加えたビーチなのだという。遊泳可能なビーチとして開設するには波が荒く、1980年代から街づくりと歩調を合わせ安全面も考慮しながら整備が行われた。
結果、サーフィンができる波は残り、広大な砂浜があり、海水浴も安全に楽しめる現在のようなビーチに生まれ変わった。
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