19世紀後半に王室が離宮を建てた
サン・セバスチャン市議会 戦略計画室 ジュディス・モレノさん●1964年、スペイン・バスク州生まれ。 地域開発と社会経済の修士号を取得。サン・セバスチャン市では戦略計画の起草と管理を担当する。また近年は都市の持続可能性や近接性、モビリティに関する研究も行う。街の中で気に入っているスポットは 海を一望する市庁舎近くの遊歩道。水平線に沈む美しいサンセットを見つめ 日々心身をリラックスさせている。
「ポイントは長いプロセスを経て、現在の状況を迎えているということです。街で暮らす人たちは文化というものに対して“人生を豊かにしてくれる生活に欠かせない要素”であると認識していますが、そうした姿勢は世代をまたいで継承され、街の伝統かつ風土にまで昇華していったのです。
ルーツをたどれば、19世紀後半にスペイン王室が離宮を建てたことがサン・セバスチャンに変化をもたらしました。なかでもマリア・クリスティーナ王妃は夏の間によく訪れ、海水浴などを楽しみながら過ごしていたそうです。
それに伴い国内の貴族階級の人たちのお気に入りの場所ともなっていったのです」。
街づくりにおいて大いに参考にしたのが、陸路で1時間もかからず着ける隣国フランスのビアリッツだったという。
ときの皇帝ナポレオン三世が王妃のために豪華な離宮を建てて以来、欧州中から王侯貴族が集まるリゾートになっていたためだ。
「当時のビアリッツは各国の貴族にとっての旅のデスティネーションでした。
1915年にはココ・シャネルが本格的なブティック、メゾン・ド・クチュールをオープンさせましたし、ファッション、文化、美味しい食事、美しいランドスケープ、ビーチでの開放的な時間などが楽しめる避暑地として人気を集めていたのです。
街はハイソサエティの人たちが好む雰囲気に溢れていて、それらはサン・セバスチャンにとって強いインスピレーションとなりました」。
目指すは各国の貴族や特権階級に好まれる街へ。やがて地元の実業家や自治体が手を組み、闘牛場、ホテル、劇場などを作ることで街の魅力を増幅させるプロジェクトを推進していくことになった。
投資による文化資本の発展は観光客の関心を引き寄せ、経済的な恩恵をもたらすことに。53年には同国最大の映画祭であるサン・セバスチャン国際映画祭がスタートし、以降、数々の文化的プロジェクトが誕生していくことになった。
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