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評論家/編集者・中川大地さん

「ゲームの進化は、現実のシステムをも塗り変えてきた」


中川大地さん
評論家/編集者。批評誌「PLANETS」副編集長。文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門審査委員(第21~23回)、芸術選奨メディア芸術部門推薦委員(第71〜73回)。 1974年生まれ。ゲーム、アニメ、ドラマなどのカルチャーを中心に、現代思想や都市論、人類学、生命科学、情報技術等を渉猟して現実と虚構を架橋する各種評論等を執筆。著書に、『現代ゲーム全史』(早川書房)『東京スカイツリー論』(光文社新書)など。2023年7月5日〜9月2日にかけて京都で開催される、現代アートとインディーゲームの今を発信する企画展「art bit #3 – Contemporary Art & Indie Game Culture-」(於・ホテル アンテルーム 京都)のコンセプト監修を担当。

私が思うゲームの魅力は、人間が人間らしい文化を築いていく営みの核になる性質かもしれない「遊び」の作用が、最先端の計算機テクノロジーと結びつきながら「現実」を塗り替え、今私たちが生きるグローバルな情報文明の先導役になってきた点です。

私は日本でのファミコン直撃世代の一人なので、ゲームの飛躍的な発展を自分自身の成長とともに目の当たりにしてきましたが、デジタルゲーム登場以前にはここまでのスピードで、ルールに基づく制度としての「ゲーム」が書き換えられていくことはありませんでした。

つまり、ゲームの発展と連動しながらIT革命やスマートフォンの普及が進行していったように、20世紀中盤までの社会革命とは違うかたちで、新たなアーキテクチャデザインが現実のシステムを書き換えていった。言うなれば自分たちの情報環境を少しずつ「ゲームチェンジ」していくことが本来的には充分に可能なのだというイメージを与えてくれた点が、実は人類がデジタルゲームを得たことの何よりの効能なのではないかと思います。

2010年代くらいから世界のゲームシーンでの大規模資本によるAAAタイトル(*1)とインディーゲーム(*2)系の二極化ということが言われて久しいですが、ゲームにおける潮流として興味深いのは、そうした環境下で私小説的なリアリティやローカルな政治社会状況に密着したゲーム表現や、アナログゲームを含めた遊びやゲームの概念の境界を問い直す前衛的実験、あるいはアートとの融合などが細々とながら続いている点。

ただ、狭義のデジタルゲーム産業の範疇では、インディーゲーム市場ももはや飽和気味になってきていて、なかなか決定的なゲームチェンジの芽は見出しづらくなっていると思います。

その一方で、昨年からイラスト生成エンジンや大規模会話モデル(LLM)を用いたジェネレーティブAIが、目下ブームとして浮上してきているわけですが、彼らをどういうかたちで人間にとっての「遊び相手」として取り込んでいけるかが、今後の5年の鍵になる気がします。また、ジェネレーティブAIブームで少し熱量の冷めてしまった感のあるNFTやメタバースといった、「過剰な期待」を浴びすぎた技術を実利的な思惑から離れ、純粋に「遊び」のために使おうという価値転換ができた時に、ゲームと社会のブレイクスルーに繋がるのではないでしょうか。

*1 AAA(トリプルエー)タイトル・・・膨大な費用をかけて開発されたゲームのこと
*2 インディーゲーム・・・インディペンデント・ゲームの略



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