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言葉②大事なのは作品であって、自分の個性や作家性なんてどうでもいい



Q:前田さんにとっては、2018年の『こんな夜更けにバナナかよ』のヒットがキャリアのターニングポイントだったように思います。

大げさに言うと、人生を賭けたというか、監督生命を賭けたということですね。当時、『ボヘミアンラプソディ』が大ヒットしている最中に、しかも今まで例のない、12月28日に公開になりました。映画は最初の3日間で勝負が決まると言われているんですけど、全くダメで、数字を聞いた時には、「あぁ、終わったな」と思いました。

ただ、普通はどの映画も2週目、3週目と数字が落ちていくんですけど、2週目から上がっていったんですよ。それは本当に映画の力と、観客の皆さまが育ててくれたおかげで、上がっていったんだと思っています。やっぱり数字が出ないといけない。興行収入が10億を超えたので、今ここに座われているのだと思います。



Q:「バナナ」と向き合うにあたり、同じ失敗を繰り返さないために何か意識したことはあったのですか?

それまでの失敗は、「監督」っていうポジションを意識し過ぎて、シャカリキになっていた部分があったと思うんです。

バナナの時は「後がない」と、いろんな意味で開き直って「みんなで作っている」って事をもう一度思い直して、人に任せる、人を信頼するっていうことを考えました。

それまでは、「仕事をやるのは当たり前でしょ」っていう意識があったんですが、あるプロデューサーから「監督、ありがとうが少ないよね」って言われたんです。

Q:周囲に対する考え方に変化があったのですね。

監督って何もできる立場じゃないんですね。全部スタッフが何かを用意してくれるわけで、朝の5時に起きて荷物を積んで運んでるスタッフがいるから現場が成立してるわけです。それを自分がやってきたから、どこか当たり前だと思っていたんですけど、そうじゃないわけですよね。

だから、「ありがとう」を言うようにしたんです。最初は口先だけでした。でも、不思議なもので、心の底から言えるようになってきて、自分でも腑に落ちたんです。



Q:映画監督というとこだわりが強いというイメージがありますが、前田さんは柔軟さを大切にしていて、変化を楽しんでいるようにも感じます。

よく陶器に作られた方の銘とか入ってるじゃないですか。僕が目指すのは日常使いの器、茶碗とかコップなんです。僕が見て育ったエンターテイメントのハリウッド映画とかは、誰に対しても垣根がなくて、どの世代も見やすくて入りやすい。

「用の美」という言葉もありますが、誰しもが手に取って使いやすい、気軽に見れる、そういう映画を作りたいと思っています。

Q:大事なのは自分の存在を際立たせるのではなく、映画の魅力が伝わるかとどうかなのですね。

大事なのは作品であって、そのために 自分の個性とか、自分の作家性なんかどうでもいいってことなんですよね。ただ、消そうとしても出ちゃうんですよ。その人の生きてきた経験や考え方が、やっぱり滲み出ちゃう。 

それがその人の生きてきた人生だし、その人の人生に対する考え方なので。だから恥ずかしい生き方できない、と常日頃思ってます。そんな正しい生き方をしているわけじゃないんですけどね。


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