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名水のような清らかさ

本人はお忘れになっているかもしれませんが、15年ほど前、上の渡辺敏史さんが、「レクサスとは“おいしい水”みたいな車を造るブランドだ」とおっしゃって、なるほどうまいことを言う、この人は天才だと感心したことがあります。

で、BEVの新型RZに乗って、「水がめっちゃうまくなった!」と膝を叩いたわけです。

BEVはマップを書き換えるだけで、むち打ち症になるくらいの激しい加速ができる。でもこの車のモーターは緻密に制御されて、速いけれど速すぎない、滑らかで伸びやかな、気持ちの良い加速を提供する。BEV化によってレクサスの美点が強調されたのだ。

コーナーでも清流を泳ぐ若鮎のように、すいすいと曲がってくれる。この車の走りは速いとか遅いではなく、清らかだ。

おいしい水がビールやワインに勝てるのか、というのがレクサスの課題だった。

そのためにお面に凝ったり、スポーティに振ったり、試行錯誤を続けた。けれども今の時代、お酒やスピードに酔うよりも、おいしい水のほうがうれしいという人も増えている。

特にZ世代にはその傾向が強いらしいので、彼らが主要な購買層になるときが、いよいよレクサスの時代かもしれない。

モータージャーナリスト
サトータケシ
フリーランスのライター/エディター。2010年型、走行距離9万5000kmの愛車シトロエンC6の車検がなんとか30万円以下に収まり、安堵したとか。少しだけ余裕ができたので、ミシュランのタイヤを新調するらしい。


フル電動化戦略の試金石

レクサスにとってフル電動化は100%吉だ。昔から静かさが最大のウリで、日本酒で例えれば「上善如水」のような滑らかな走りがプレミアムブランドの中でかえって魅力に思えたもの。

途中で素晴らしい排気音を撒き散らすLFAのような特殊モデルを出すからややこしくなっただけで、レクサスの魅力は基本、そんなところ(=昔ながらの車的な魅力)にはない。

そう考えるとRZはとても重要だ。というのもエンジン付きのRXが今、ブランドの屋台骨だから。世の中の車への関心がこのままのトレンドで進むとして、RXと同じような大きさのSUVであるRZはフル電動戦略における要になる。

当然、この車に対する評価もその辺りをメインとしなければならない。細かいところは抜きにして。

はたしてRZはRXの代わりになりうるのか。せっかくの電動化というのにスタイリングが代わり映えしないことだけはマイナスだけど、それだけレクサスがRZをマーケット面でも真剣に考えて作った証しでもあろう。

むしろ評価すべきは圧倒的な静粛性と“ちょっと新しい”と思える操縦感覚だ。RZの乗り味には個性がある。それが新たなレクサスらしさにつながっていく。

モータージャーナリスト
西川 淳
フリーランスの自動車“趣味”ライター。得意分野は、スーパースポーツ、クラシック&ヴィンテージといった趣味車。所有する愛車もフィアット500(古くて可愛いやつ)やロータス エランなど趣味三昧。
この記事は、オーシャンズ11月号のほんの一部。すべての特集は本誌でチェック!


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