実際に乗ってみると、通過駅には停まるが、もちろんドアは開かない。そしてホームには「この列車は特別車両です。ご乗車にはなれません」というアナウンスが流れ、やがて再び発車する列車を、人びとはホームでただ見送る。「特別車両」の窓から彼らのいぶかし気な表情を見るのはどことなく、それこそ「特別」な気分だった。
線路脇にならぶ住宅の軒々をかすめるかのように走る路面電車、そのきわめて日常生活に近い乗り物の中で「移動」以外の体験ができることには思いがけない非日常感があった。
また、知らない乗客同士が会話もなく偶然乗り合わせることが前提の「公共交通機関」が、真逆の性質の「プライベートな」イベントスペースになるのもなかなかおもしろい。
そしてなにより、高校生たちが大人に対して、エネルギーたっぷり、力を込めてフードロス、世界の飢餓状況、海洋の汚染状況などについてデータを引用しながら具体的かつ立体的に「講義」してくれるという逆転関係(該当車両には同校の先生たちも乗車していた)が、実に快い非日常体験だった。
「SDGs部」部員、貸切列車に乗り込む前に
運営側・東急に聞いてみた
この「貸切」企画について、東急 社長室 広報グループ 広報企画担当 小倉一真氏に聞いてみた。
──今回の青稜中学高等学校の例のような教育目的、社会啓発目的以外には、どんな人たちが、どんな目的で利用しているのでしょう
鉄道ファンの方や地域のイベントなど、様々な方にご利用いただいています。
──貸切の企画はいつ頃から? コロナでは中断しましたか
この貸切のシステムは本当に久しく前から実施しているもので、コロナでも中断せず、申込があった場合には運行していました。
──一般乗客から「なぜ乗れないのか」などのクレームがあったことはありませんか
車外放送等で啓蒙していますので、一般の乗客の方々からもとくにクレームなどがあったことはありません。
──もしご自身がプライベートで貸し切るのであればどう利用しますか
幼稚園・小学校や町会など主催の子ども向けのイベントなどで利用したいですね。
子ども向けイベントで利用すれば、「運転手さん」はさすがにできなくても「車掌さん」の役目は体験できるかもしれないし、大人も、子どもの頃の夢が叶ったりするかもしれない。
都電荒川線も
ちなみに同じく路面電車で、荒川区の三ノ輪橋停留場と新宿区の早稲田停留場間で運行される「都電荒川線」も、個人が負担できるコストで1両まるまる、貸し切ることが可能なようだ。
都電荒川線(Getty Images)
東京都交通局のHP上の情報によれば、片道運行の一般料金は1回1万3820円(学生割引あり)。希望区間が指定できるほか、車両5タイプから、貸し切る車両を選ぶことができるらしい。お盆や年末年始など、繁忙期を除く毎日、貸切が可能だ。