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ごまかしの利かない波で選手の真価が問われる

さて、このワイルドかつビューティな波を舞台に行われるのはメダルを懸けた戦いである。先日、松田詩野プロが日本代表の内定第1号に決まった報道があったように、各国を代表する精鋭が集い、金・銀・銅を目指してパドルアウトする。

東京五輪のフォーマットに倣えば1ヒートは4人。その誰もが波と他国の選手との対峙を求められ、タクティクスを駆使して上位進出を狙う。

「1ヒート25〜30分だとして、その間に良い波は1〜2本入ってきます。勝ち上がるためには、理想はその2本を、少なくとも1本は逃さずキャッチすることが必要です。

他の3人よりも早く沖から入ってくる波に気付き、テイクオフポジションへ移動しなければなりませんが、それにはチョープーの波を見極める力を身に付けていることが必須です」。

波を見極める力とは、波への見識だと言い換えられる。波を知れば知るほど、どの波がハイスコアにつながるのか、その波を掴むためにはどのポジションで待てばいいのか、といったことに対して最適な判断ができるようになる。

たとえばチョープーでは大きくふたつの方角からうねりが入ってくるという。沖に向かって右側から入る南西うねりは、どでかいチューブとなり、左のほうから入る南うねりは、テイクオフがしやすい緩めのチューブとなりやすい。

そしてどちらの波をジャッジは好み、ハイスコアをつけるのかといえば、それは紛れもなく前者。なぜならチョープーは巨大なチューブが魅力であり、空を飛ぶエアリアルのような派手なアクションができる波ではないからだ。

勝ち上がる条件は他の選手とのチューブ合戦を制することに尽き、ハイスコアを得るためには、より大きな波をキャッチし、際どいテイクオフをメイクし、波の懐の奥深い場所にポジションを取りながら走り抜けていかなければならない。

「アンディ・アイアンズというハワイ出身のサーファーがいました。

僕が選手として現役だった時代にチョープーで最も大きなインパクトを残し続けた人で、いつも多くの選手よりもさらに奥、30mほど離れた場所で波を待っているんです。たとえテイクオフができてもチューブの深すぎるポジションに位置することになって走り抜けられず、潰されてしまうのではないか。

そう思える場所なのですが、それでも彼は誰よりも大きなサイズの波にテイクオフを繰り返し、次々にチューブをメイクしていきました。日頃からハワイの大きな波でサーフィンをしていたこと、タヒチにも何度となく足を運んでいたことから、チョープーの波に自信を持っていたんでしょう。

彼だから体現できる“狂気のライディング”には、ジャッジ、メディア、ギャラリー、そして他の選手たちのすべてが魅了されていました」。

マンションの3階ほどの高さの波でもきれいにブレイクしていくチョープーでの試合で、巨大な波に挑むことを好んだアンディ選手の姿勢は多くの人の琴線に触れた。

決して一か八かのギャンブルではなく、小ぶりな波でスコアをまとめるのでもない。どでかいチューブをメイクすれば勝てるというシンプルな思考と、恐れを知らぬ挑戦的なサーフマインド、そして危険なライディングを完結させる高いスキルを備えていたから、そのパフォーマンスは観衆を熱狂させることになった。

言うなれば、チョープーでは力量が丸裸にされるのである。

本大会での競技はミッドシーズンに開催されるためビッグサイズのチューブが舞台になる確率も高く、そうなると付け焼き刃のスキルでは太刀打ちできない。

また堀口プロは、波を見極める力はチョープーで多くの経験を積んでこそ身に付けられると言った。パリ五輪のサーフィン競技は偶然が入る余地のない真剣勝負となるのだ。

そこで勝ち名乗りを上げるのは、心技体を兼ね備える総合力の高いサーファーなのである。

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ティム・マッケンナ=写真 小山内 隆=編集・文

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