OCEANS

SHARE

Q8. 最近は、若いうちにお金を貯めて早期にリタイアする働き方が理想という考えもあります。落語家は定年のない職業ですが、理想的な人生における時間の使い方はどのようなものでしょうか。

落語にはいろいろな演目があります。以前、桂歌丸師匠が、「若いからこそできる元気のいい話もあれば、味が出てきてからやるべき話もある」とおっしゃっていました。年代にあった色の出し方があると思うので、生涯現役でいたいですね。

Q9. 20代から90代まで現役で活躍している落語界。時間の感覚においてジェネレーションギャップを感じることはありますか?

上の世代の師匠方は、何気ない時間を大切にされているというか、「無駄な時間を愛する」心の余裕を持っている気がします。若手ほどあくせくしてしまいますが、師匠方からは貴重な話が聞けることもあるので、楽屋などでご一緒する時はできるだけお話を聞きたい気持ちがあります。



Q 10.タイパが重視され、さまざまなエンターテイメントが存在するいま、「落語を聴く時間」が観客に提供する価値はどんなものだと思われますか?

私自身、はじめて落語を聴いたときに「なんて馬鹿馬鹿しいんだ!」と驚いた記憶があります。昔の人も同じ噺を聴いて笑ってストレスを発散していたと思うと、「俺たちもそうだったから一人じゃないよ」と寄り添ってくれている気がするんです。

普段悩んでいることや嫌なことがどうでもよくなって、「難しく考えなくていいか」と思わせてくれるのが落語の魅力の一つ。だから何も考えず噺に没頭し、それこそ「愛すべき無駄な時間」を過ごしていただきたいと思います。

寄席は毎日開いていて、ふらっと入って好きなタイミングで出ることもできます。1時間いれば3、4席は噺を聴くことができますし、タイパ重視でタイムスケジュールをしっかり決めている方にもうってつけのエンターテインメントなんです。



Q11. 「愛すべき無駄な時間」を楽しめる、おすすめの落語の演目を教えてください。

『長短』、『子ほめ』、『あくび指南』。

気楽に聞けて笑えて、更には噺に出てくる登場人物も無駄な時間を過ごしているなぁ〜と、特に感じる三席です(笑)。

Q12.5年後、時間の価値観はどのように変化していると思いますか?

1日が24時間なのは変わりませんが、昔に比べて生活におけるコンテンツが増えていると感じます。やるべきこともやりたいことも増えている。それは楽しいことではありますが、その分時間の価値がどんどん高くなるので、自分なりに時間を差配する力が必要になってくると思います。

その中で、いかに無駄な時間を過ごすかが自分らしさに繋がるというか、無駄と思われる時間がより貴重で愛おしいものになっていくのではないでしょうか。

ちょうど3年前、コロナ禍で軒並み公演がキャンセルになってしまった時期を振り返るつる子さん。

ちょうど3年前、コロナ禍で軒並み公演がキャンセルになってしまった時期を振り返るつる子さん。



西あかり=写真 山本章子=文
記事提供:FUTURE IS NOW

SHARE

次の記事を読み込んでいます。