山の活かし方①
山を学び山で遊ぶための学校
ここからは新しい視点でクリエイティブな活動を行う3名に、それぞれ山での楽しみ方や未来の山の活用法を考えてもらいました。
まず山の活用アイデアを伺ったのは、クリエイティブディレクターとして活躍する於保浩介さん。嵐のラストライブコンサートでの映像・AR演出を担当するなどデジタルアートと関わりの深い於保さんですが、実はプライベートではキャンプ歴20年のアウトドア好き。会社の保養所としてキャンプ施設を作る計画を立ち上げ、2019年長野県・八ヶ岳に完成させました。
「山仕事は究極のクリエイティブで、山は究極の遊び場なんです」
キャンプ場となる山を切り拓く作業は、林業に従事する大学時代の友人の手助けを受けつつ於保さん自ら行いました。チェンソーを使い木を一本一本切り倒していく。ほぼ2人のみでの開墾作業は相当な重労働のはずですが、於保さんは「新鮮で刺激的」だったと振り返ります。
現在も月に2回は八ヶ岳のキャンプ場で草刈りや薪割りをして過ごすという於保さん。こうした山で身体を動かしリアルなものに触れる時間と東京での生活の振り幅が「人間らしい生活を保ってくれている」と話してくれました。
於保さんが未来の山の活用方法として考えるのは、「山の学校」。木こり、林業家や地元の人など山に詳しい専門家に、山の開墾や整備に必要な知識を教えてもらえる場所です。山の学校は会員制。生徒たちにはある程度の授業料を負担して、山を共同所有してもらいます。十分な知識をつけて卒業すると、めでたく山の一部が与えられ自分なりの計画を立ててその土地を活用することが許されます。
「キャンプブームで山を買う人が増えていますが、山のことをよく分からないままに普通の家を建ててしまう人もいますよね。でも、僕が友人に教えてもらったように山のことを学べたら、適度に手入れされて良い状態の山を作っていくことができると思います」
於保さんの考える山の学校は、その時に山初心者と山を結びつける場所になるでしょう。そして、技術が進みデジタルでできることが増えるであろう未来には、あえて山での原始的な経験が求められるようになるかもしれません。
於保浩介
ビジュアルデザインスタジオWOWのクリエイティブディレクター。広告を中心とした映像全般(CM、VI、PV)のプランニング及びクリエイティブディレクションを手がける。近年ではWOWが培った3Dデジタル技術を駆使し、日本のものづくりに新しい価値感を見出そうとしている。
山の活かし方②
素材から考えて作る山丸ごと建築
次にお話を伺ったのは、ユニークな視点で建築界に新しい風を呼び込んでいる建築ユニットo+hの大西麻貴さんと百田有希さん。
林業と深く関わるプロジェクトを主導した経験もあるお二人。滋賀県多賀町の公民館建設プロジェクトでは、多賀町産の木材のみを使用して2600平米の木造平家を設計しました。地元で育まれた素材を使うことで、その土地の歴史をも伝えるような雰囲気を作り出しましたが、百田さんは心残りがあると言います。
百田さん 山のことを考えて作ったつもりでしたが、材料を起点にして設計したわけではありませんでした。今思うと、山に生えている木からどういう建築を作るか、ということから考える方法もあったのではないかと感じています。
レシピに材料を当てはめて作るのではなく、もともとある材料からレシピを考える。素材先行の建築のポテンシャルは、大西さんも指摘します。
大西さん 山に行くと、ものすごく長い木や大径木に出合うんです。でも、そういう木は大きすぎて使う人がいないから細切れにされて燃料になることが多くて。もったいない使われ方をされてしまいます。
それならば、とお二人が考えるのは、山の環境そのものを活かして建築を作ること。最近山小屋の設計を始められたお二人は、山に入る度に緑や岩の色など自然が作り出す色に感動すると言います。そうした木々や岩を建築の一部として使うとどうなるのでしょうか。
例えば、一般的な住宅では使われないような大木を存在感のある柱や梁として使います。そうすることで、素材が意思を持って生きているような建築を作れるのではないかと考えているそう。 さらには、山全体を空間づくりの場として考えるアイデアも出てきました。山を歩き回って居心地の良い場所を見つけたら、そこに空間を作るのです。
百田さん その時、その場所でしかできない居場所みたいなものを作ってみたいんです。そこに小屋があるからここでご飯を食べる、というのではなくて、ここが気持ち良いからここでコーヒーを飲もう、みたいに。
大西さん 登山をするときにどこに寝床を作るのか考えるのと同じように、建築を作るようになったら面白いですよね。そうやって作った空間はすごく心地いいんだろうなと思います。
大西麻貴
愛知県出身。京都大学工学部建築科在学中に百田さんに出会いユニットとして設計をするように。東京大学大学院卒業後、共同で;大西麻貴+百田有希/o+hを主催。「二重螺旋の家」(2011年)のように、小説のナラティヴから着想を得て作る物語性のある建築を得意としている。
百田有希
兵庫県出身。京都大学工学部建築学科卒業後。同大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程を修了。2008年から大西麻貴+百田有希/o+hを共同主宰。伊東豊雄建築設計事務所で経験を積み、2014年からユニットでの建築活動を本格的に開始。その土地に根ざした建築を作ることに取り組んでいる。
3/3