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依存症のもうひとつの特徴は、「私は状況をコントロールできている」と思い込んでしまっていることだ。ドラッグの依存症の患者は、医学的に見ると完全に「依存症」なはずなのに、「そんなことはない。コントロールできている」と言い張るという。同様に、多くのビジネスパーソンは、自分のワークスタイルを自分で掌握できていると思い込んでいたのではないか。
たとえば、弁護士、戦略コンサル、外資系銀行、広告代理店、商社など、ハードワークで有名だった会社でもこの10年で一気に働き方改革が進み、以前のように夜中3〜4時まで働くことは当たり前ではなくなっている。
コロナ禍で、強制的にオフィス出勤がなくなったことで、働き方をゼロベースで見直すきっかけが訪れた。それぞれが今までのオフィスでの働き方から離れてみて、感じたことは、「今までの働き方や生き方って、ちょっと異常だったかもしれない」ということだ。
では、そういう人はどうすればよいのか。
僕は先に述べたように、KDDIとの共同プロジェクトでデジタルデトックスのプロジェクトに携わった際、依存症についての文献を徹底的に調べたことがある。そこでわかったことは、「状況を無理やり解決してはいけない」ということだ。
今の状態が異常だと気づいたからといって、その原因を強制的に取り除こうとしても、根本的な解決にはならない。「仕事がきついのは、会社のせいだ」と外部のせいにして会社批判をしても思考パターンが変わらないから、いつまでも自分自身を変えることができない。
働き方に行き詰まった人にとって、大切なのは、まず受け入れること。
「今起きていることはすべて事実。でもそれは悪いことではない。単なる症状である」と自覚する。
仲間をつくる。ありのままの自分をお互いに開示し合う。
そして、それを受容することから始める。その上で、少しずつ行動を変えていく。
たとえば、目の前に食べものがあり、それを「食べたい」と自覚したとする。それまでなら、食べていたところを、たとえば「食べずに本を読む」といった他の行動に変えてみる。認知行動療法というカウンセリング領域の考え方だが、自分の認知パターンを可視化して、その認知に対して刺激を受けた時に、別の選択をすることで、徐々に習慣を変えていく。
働き方も同じだ。
先ほど、仕事をやめるのは劇薬で本質的な変化が起こりやすいと書いた。だが、そんなにすぐに仕事を辞められる人というのは少数派だろう。現実的に、変わるためには、今までの働き方が異常だったことを受け入れる必要がある。そこから少しずつ行動を変えていくのだ。
かつて僕は、ソニーで働いていた頃に「みんつく工房」という勉強会をやっていた。みんつくというのは「共創」という意味で、共創でアイデアを考えていくワークショップの研究を仲間とやっていたのだ。今でこそ「共創」というのは社会的に受容されているが、この勉強会を始めた2010年頃はまだマイナーな考え方で、日々の業務の中で共創ワークショップをやってもまったく理解されなかった。
しかし、社外には仲間がいた。彼らと一緒にプロトタイプを実践する。その成果の一部を使って、2〜3年後に理解してくれた会社の中で実践を進める。
そんなふうに会社に所属しながら、副業でもワークショップをやるようになり、初めて5万〜10万円という報酬をもらってワークショップを開催できた。決して大きな額ではなかったが、このことはその後、キャリアの大きなトランジションを迎える上での大きな自信となった。
『じぶん時間を生きる TRANSITION』(佐宗邦威著、あさま社刊)