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② モロッコの渓谷で遭難。日は暮れ、成す術はなし



続いては、モロッコ南部、アトラス山脈の東部にあるトドラ渓谷という観光地に行ったときのことです。

宿から渓谷までは、徒歩30分足らずの舗装された道があります。僕らはまず、そのオモテの道を通って渓谷へ行きました。宿に帰ると、旅人が手書きで書いた地図を見つけました。そこには「ウラ側の土漠を回るルートもある」と記されていたので、翌日はそのルートを使ってみることにしたんです。2〜3時間で着くと書かれていたので、散歩程度の軽装で。

「手書きの地図で出かけるってロマンチックだね」なんて妻と話しながら、スマホもオフにし、朝9時頃に出発しました。

道という道はなくて、土漠のハゲ山を超えて進むのだけど、歩けど歩けど辿り着かない。なんかおかしいなとスマホのマップを見たら、まったく違う方向に来ていました。



手書きの地図には「大きな石を右に曲がる」とか「岩や穴が目印」と書かれていたのですが、よく考えたら、どこにでも同じような岩や石があるんですよね。振り向いてもどっちから来たのかわからないし、地図アプリ上は真っ白。その時点で15時頃でした。

とりあえず村の方角に向かって歩いていたら、ラクダを連れたベルベル人の青年を見かけまして、村まで案内してくれとお願いしました。

愛想のない人で、ただ黙って右手を差し出すだけ。小銭を払うと歩き出すんだけど、すぐに休む。で、小銭を払うと少し歩いてまた休む、の繰り返しでした。

とうとう小銭がなくなったとき、足元に道らしき筋が見えてきました。地図アプリ上でも細い線になっていたので、道だと確信して青年と別れました。日没にも間に合うなと思いながら。

右側の筋のようなものを道だと思っていた。

右側の筋のようなものを道だと思っていた。


砂利道を歩いていくと、だんだんと砂利が石、石から巨石になり、しまいには岩をよじ登るようになって……。結局、崖の上まで登っていて、そこで日没を迎えることになりました。

もう遭難決定ですよ。頭上の星や眼下に広がる村の明かりは絶景だけど、絶望的な状況でした。宿ではストーブを焚くほど夜は寒いのに、その日は当然、着の身着のままです。猛獣はいないと思うけど、野宿するにも身を寄せる木もないし、氷点下まで下がったら死ぬかも……終わったな、という感覚でした。

膝を抱えて凍え死ぬにしてもまだ時間はあるし、試しに「ヘ〜ルプ!」「ボンソワ〜〜ル!」と叫んでみたんですよ。

すると、向こうからひょこっとおばさんが出てきて(笑)。暗闇の中、走って向かいました。無言で手を差し出すおばさんにお札を渡して村の方まで連れて行ってもらい、事なきを得ました。

宿の人に聞いたらその地図で迷った旅人が何人もいたそうです。手書きの地図で出かけるなんてちっともロマンチックじゃなかったですね。


3/3

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