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2023.08.11

ライフ

「風呂に水を溜める」はNG!防災テクを最新OSにアップデートせよ【震度6以上の避難対策】



国内外30カ所以上もの被災地へ赴いた経験を持つ国際災害レスキューナース、辻直美さんに聞く最新の防災テクニック。

前回に引き続き、「震度6以上の地震が発生した際の自宅避難」というシチュエーション想定で考える「水の備蓄」の後編をお届けする。

▶︎第1回 災害時に必要な1日の水量は最低でも3L
教えてくれたのは……
辻 直美さん
辻直美さん●国際災害レスキューナース、一般社団法人育母塾代表理事。国境なき医師団の経験を経て、現在はフリーランスのナースとして活動。講演と防災教育を行いながら、要請があれば被災地にも出向く。国内外30カ所以上もの被災地で実地経験を持つ、防災のエキスパート。

辻直美さん●国際災害レスキューナース、一般社団法人育母塾代表理事。国境なき医師団の経験を経て、現在はフリーランスのナースとして活動。講演と防災教育を行いながら、要請があれば被災地にも出向く。国内外30カ所以上もの被災地で実地経験を持つ、防災のエキスパート。


「地震が来たら風呂に水を溜めておけ」はNG!



昔から「地震が来たら、風呂に水を溜めておけ」とはよく言われるが、今、それは絶対にNGだ。

「お風呂に溜めた水を何に使うか、というアンケートをとると、約8割の人が『トイレを流すのに汲み水として使いたい』と答えます。

でも、それはやっちゃダメなんです。

なぜなら、地震によってトイレの配管が割れている可能性があるから。マンション住まいの方なら特に注意してください。たとえ自分の家からは屎尿が消えても、下階の部屋の壁から滲み出てきたりします。

実際、そういったトラブルは非常に多いんです。震度6以上の地震では、自治体の防災担当からの指示があるまでは、トイレの水は流さないと、覚えておきましょう」(辻 直美さん、以下同)。

ではほかに、風呂の水をどんな用途で使うのか。

洗濯? 食器洗い? いやいや、そもそもお風呂に溜めた水って、そんなに清潔なのだろうか?



「例え、きれいに洗ってあった浴槽だとしても、やはり清潔ではないですよね。食器を洗う水としてはもちろん、洗濯にもおすすめできません」。

そこで辻さんならこうする。

「バスタブに直接、水を入れるのではなく、45Lのゴミ袋を2枚重ねたものに水を入れてバラバラに保管しておく。1つ35L程度の水袋を3つくらい作っておけば、100L程度の清潔な水が備蓄できることになります。袋ごとに、飲用、洗濯用、食器洗い用などと分類しやすいので便利です」。

ひと昔前は良しとされていた常識も、今や完全に過去の話、防災のテクニックもアップデートが必要なのだ。

給水はゴミ袋を入れたバックパックで効率よく持ち運ぶ!



断水が続く地域では、1週間から10日ほどで、給水所が設けられることがある。その際も、ちょっとした“作法”があるのでお伝えしておきたい。

容器を持参して給水所に並び、タンクの蛇口を捻って水を小分するのは、なんとなくの想像どおり。問題は「何に水を入れて持ち帰るのか」だ。

「たいていの方はペットボトルを2〜3本、あるいはウォータージャグなんかを持ってくる方もいます。それってすごく非効率だと思いませんか?

大抵の場合、断水のときは停電も併発しているので、歩いて給水所に行きます。つまり、重たい水を手で持って歩いて帰らなければならない。もっといえば、マンションの高層階にお住まいの方なら、水を持って階段を上がらなければならない。もう、手がちぎれますよ!」。



さらに、ペットボトルで小分けにしすぎると、給水所の行列でイライラされるというデメリットも生まれるとか。そこで辻さんは、「大容量のゴミ袋に入れて持ち帰るのが最も効率がいい」と言う。

「バックパックに45Lのゴミ袋を2枚重ねにして入れていき、そこへ一気に水を入れて口を縛ればOKです。

お子さんがいる家庭なら、一緒に給水所へ連れて行くのもいいですね。小さいリュックサックを持たせて、持てる量の水を入れてあげる。そうすることで、子供たちもその水を大切に使うようになります。大人だけで対応しようとせず、家族みんなでやればいいんです」。

バックパックは登山やキャンプで使うような、生地が頑丈でウエストベルトやチェストベルトのついたものがおすすめ。腰に負担がかかりにくく、安定するためだ。

ラクだからといってキャリーケースはNG。震災後は足場も悪く、危険が伴うことを肝に銘じておこう。



え? ゴミ袋2枚重ねで、破けたりしないかって?

「大丈夫です! というか、もし不安に思うなら普段からご家族を巻き込んで試しにやってみるといいですよ。子供たちにも水を入れたリュックサックを背負って歩かせたらみたらいいんです。『あ、このくらいの量なら大丈夫だ』って、わかるから」。

防災となると「1回シミュレーションしておこう」という感覚が欠如している人は多いはず。

「いろいろなアイテムを買ってきても、大事に置いておくだけという人、多いと思います。いざというときに、使ったことがないものを正しく使おうとしても、それは絶対に無理です」。

月1回の家族で防災デー、早速実践してみてはいかがだろう。


さて、次回は「災害時に活用できる家にあるもの」をテーマに紹介していこう。こちらも、ぜひ防災に役立ててほしい。

前編はこちら▶︎1日の水消費量は1人250L以上!自宅の“備蓄水”、本当に足りてる?

外山壮一=取材・文

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