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2023.08.10

ライフ

1日の水消費量は1人250L以上!自宅の“備蓄水”、本当に足りてる?【震度6以上の自宅避難対策】



世界有数の地震大国で暮らす我々は、災害への備えを絶対に忘れてはならない。

そこで気になるのが、現状の防災対策が果たして正解なのか、ということ。実際に被災したときのイメージが曖昧であるがゆえに、本当に必要なモノ・コトがわからない人も少なくないだろう。

というわけで今回は、「震度6以上の地震が発生した際の自宅避難」というシチュエーション想定のもと、真に役立つ防災テクニックを紹介したい。

お話を聞いたのは、国際災害レスキューナースの辻 直美さん。

大事な人を護るための「スキル」としても知っておくべき防災対策。まずは「水の備蓄」をテーマにお届けしよう。

教えてくれたのは……
辻 直美さん
辻 直美さん●国際災害レスキューナース、一般社団法人育母塾代表理事。国境なき医師団の活動で上海に赴任し、医療支援を実施。帰国後、看護師として活動中に阪神・淡路大震災を経験。実家が全壊したのを機に災害医療に目覚め、JMTDR(国際緊急援助隊医療チーム)にて救命救急災害レスキューナースとして活動。  現在はフリーランスのナースとして国内での講演と防災教育をメインに行い、要請があれば被災地で活動を行っている。2023年4月時点で看護師歴32年、災害レスキューナース歴28年。被災地派遣は国内外30カ所以上にのぼる。近著に『地震・台風時に動けるガイド 〜大事な人を護る災害対策〜』(Gakken)がある。

辻 直美さん●国際災害レスキューナース、一般社団法人育母塾代表理事。国境なき医師団の経験を経て、現在はフリーランスのナースとして活動。講演と防災教育を行いながら、要請があれば被災地にも出向く。国内外30カ所以上もの被災地で実地経験を持つ、防災のエキスパート。


家庭で1人が1日に使う水の量は250L以上



災害時に必要な水の量を考える前に、まずは我々が普段、何気なく使っている水の量がどれくらいかを知っておきたい。

東京都水道局の調査によれば、家庭でひとりが1日に使う水の量は、平均214L程度(令和元年)。

さらに辻さんによれば、髪の長さがセミロングくらいの成人女性が1日使う水の量は276L(2Lペットボトル138本)程度とさらに多くなる。最近は男性でも清潔感に対する意識が高いこともあり、性別による水の使用量には、ほとんど差がないと考えていいそうだ。



これだけの水を、普段どんなことに使っているのか、改めて振り返ってみる。

手洗い、入浴、トイレ、掃除、料理、飲用など、当たり前だがどれも生活に欠かせない。逆を考えると、地震で断水が発生した際、これらのすべてが十分に行えなくなるわけだ。

「例えばトイレ。節水タイプのトイレでも、1回流すのに5〜7Lの水を使います。これが1日5〜8回となると、トイレだけで40〜50Lもの水を使っていることになります。

近年は『ウォシュレットがないとツラい』という人も増えているので、使用量はさらに多いと考えていいでしょう」(辻 直美さん、以下同)。

災害時に必要な1日の水量は最低でも3L



では、災害時ならどうか。

災害時、人が1日に必要とする最低限の水の量は、飲食用に2L、生活用水に1Lの計3Lなのだそう。平時とは比較にならないほど少ないが、この圧倒的な差をイメージできていない人が非常に多いと辻さんは言う。

「1日3Lというのは本当に最低限、生活の中で必要な量です。

例えばご家族の中で、奥様や女の子の髪の毛が長いとなると、3Lでは賄えないことになります。最低限の目安はあるけども、それぞれの“清潔”に対するニーズによって変わってくるわけです。

これが、普段どれだけ水を使っているのか把握していないと、『3Lもあれば余裕で足りる』と簡単に考えてしまう。

以前、知り合いの男性に『1日3Lの水で2日間過ごしてみてください』という実験をお願いしたところ、1日で『もう無理』と音をあげていましたから」。



実際にシミュレーションして、危機感を感じる。そうやってはじめて、「水を極力使わなくてすむ工夫や代用品を考えなければ」という意識が生まれるものなのだ。

「飲用を節約したり、料理を工夫したりするのはもちろん、災害用トイレやお尻拭き、ドライシャンプーなど。水なしで自分の清潔に対するニーズを満たすアイテムを併用していくことが大切になってきます」。

備蓄水は各部屋に分散させ、ローリングストックする

1日最低3Lが目安とはいえ、家族の人数分の水を備蓄しておくとなると、気になるのが「置く場所」の問題。

被災時に断水がどのくらい続くかによっても必要量は変わってくる。

こちらは辻さんの大阪のご自宅。後ろに見える棚の上の白い箱には、水がストックされている。

「自分が遭わないかもしれない被災に対しても、不安を感じる方って結構いるんです。そこで大前提として、今自分が住んでいる場所がどんな被災に遭う可能性があるのか、事前に把握しておく必要があります」。

そこで活用したいのが、「地震10秒診断」や「東京備蓄ナビ」といったデジタルサービス。

30年以内に震度6以上の地震がくる確率や、ライフラインの想定断絶日数などの重要情報を、すぐさまエリアごとに叩き出してくれる。

これらを参考に水の備蓄の最低ラインはキープしておこう。



「置く場所問題」に話を戻す。辻さんの場合は、どうしているのか?

「私は大阪と東京に自宅があるのですが、東京の1LDK(およそ40平米)の家には、246Lの水を常に備蓄しています」。

246Lといえば、2Lのペットボトル123本分。1ケース6本として、20箱以上のボリュームだ。

水野入ったダンボールに、木目調のテープを貼って見た目

水の入ったダンボールは、木目調のリメイクシートを貼ってアレンジ。


「それでも、家のどこにそれだけの水が保管されているのか、パッと見ではわからないと思います。なぜなら、家中の至る所に分散して置いているからです」。

辻さんは玄関やリビング、脱衣所など、場所ごとに水を保管。ペットボトルのサイズも500ml、1L、2Lと部屋に応じて変えている。どの部屋で被災の瞬間を迎えるかわからないからこそ、各部屋に分散しているのだ。

「ダンボールに入れたままでもインテリアだと思って、リメイクシートを貼ったりしてアレンジしています。それだけで、ダンボールの圧迫感を軽減できるのでおすすめ。防災を当たり前にするうえでも、備蓄品とインテリアとの共存は大切だと思います」。

保存した水を清潔に使う意味でも、容器はペットボトルがベターだそう。

ウォーターサーバーの水を使うのもいいが、メーカーによっては電気が通ってないと水が出せなかったりするので、どういった機種なのかは事前に把握しておいた方が安心だ。



備蓄するうえで、もうひとつ気になるのが賞味期限切れの問題だ。

「私の場合は、製造から5年とか10年が経過した水を飲みたいとは思いません。そこで、備蓄の水を普段から使って、減った分は買い足して、という具合に『ローリングストック』しています。

常にフレッシュな水がある状態をキープできますし、フードロスがなくせるというメリットもあります」。


防災用と決め込んで眠らせている備蓄品、今一度チェックしてみることをおすすめする。

後編でも引き続き、水をテーマにした最新の防災テクニックを紹介しよう。

外山壮一=取材・文

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