▶︎すべての写真を見る 「今年の夏は危険です」。
開口一番そう警鐘を鳴らすのは、せたがや内科・神経内科クリニックの久手堅 司院長だ。梅雨が明けるこの時季がもっとも気温が上がりやすいとして注意を呼びかけている。
誰もが熱中症の危険と隣合わせの猛暑、久手堅先生に「これをやれば熱中症は防げる」という3つの対策を聞いた。
話を聞いたのはこの人! 久手堅 司●せたがや内科・神経内科クリニック院長、医学博士、頭痛専門医。自律神経、気象病、寒暖差疲労などの特殊外来を立ち上げる。気象予報・体調管理アプリ「頭痛ーる」監修医師。著書『気象病ハンドブック』
熱中症になりやすい気温と室温は?
ーー熱中症を起こしやすい条件を教えてください。 熱中症は「気温」と「湿度」が鍵になりますが、気温は25度以上、湿度は70%を超えると注意が必要。つまり、35度を超える日が続く現状では、誰がいつ熱中症になってもおかしくありません。
ーーこの時季は外に出るのが怖いですね……。 実は、室内で熱中症になる方が半数近いというデータもあるので、家の中でも注意が必要なのです。
ーーえっ、室内も危ないんですか? 消防庁によると
今年7月上旬、熱中症の発生場所でもっとも多かったのが「住居」で4割を超えています。
4割超えの室内熱中症!注意すべき温度と湿度は?
ーー高い割合ですね。室内で熱中症を防ぐポイントを教えてください。 室内に温湿度計を置き、部屋の温度と湿度を管理するようにしましょう。今はスマホで温度や湿度を測れるアプリもあるようです。
ーー熱中症にならない気温と湿度は? 室内なら気温は28度以下、湿度は50〜60%に保っておきましょう。エアコンの種類や個人の体感によって差はあるので、28度でも暑さを感じる場合は、心地よい室温になるまでエアコンの温度設定を下げてください。
「冷房」「ドライ」どちらが効果的?
ーーエアコンの「冷房」と「ドライ」機能はどちらを選ぶのがいいですか?
2つの組み合わせがベストですね。まず、冷房機能で28度以下まで室温を下げたら、ドライ機能に切り替えて湿度を下げましょう。
20度など極端に低い温度に設定する人もいますが、体が冷えすぎると夏バテなど別の問題を引き起こしますので、気をつけてください。
「熱中症予防には水を飲め!」は間違い?
ーーでは、屋外での熱中症対策について教えてください。 屋外の場合は、基本の対策が本当に重要です。ポイントは3つ。
①水分+塩分をとる
②長袖を活用する
③自律神経を整える
ーー①の「水分」というのは水でいいですか? 水を飲むだけでは不十分です。汗で塩分を失っているため、低ナトリウム血症になるリスクもあり、最悪の場合は意識障害やけいれんを起こしてしまいます。
ーー水ばかり飲んでました。 決して水がダメというわけではなく、一緒に塩分を補充すれば大丈夫です。たとえば、塩分タブレットや梅干し、塩をなめるだけでもいいでしょう。
ーー経口補水液を飲むのが理想的ですか? 「OS-1」のような経口補水液は、熱中症になったときこそが出番です。値段も決して安くないため、日頃から飲む必要はありません。
ーー先生のおすすめは何ですか? 僕は麦茶がいいと思います。
久手堅先生のおすすめは「麦茶」
ーーでも、麦茶に塩分は入ってないですよね? 確かに麦茶に塩分は入っていませんが、汗で失われるマグネシウムなどのミネラル分が多く含まれているので、熱中症予防には効果的です。汗をよくかく外出や運動時などは、麦茶の場合も塩分タブレットをプラスするといいでしょう。
ーー家にいると、ついつい水分摂取を忘れがちです。 水分は体内から自動的に失われていきます。特に夏は喉の乾きを感じていなくても、水分はとるようにしてください。ただ、一気飲みするだけでは尿として体の外に出てしまうので、あくまでこまめな摂取が大切です。
この時季、成人男性(60kg)なら、1日約2リットルが必要です。※体重1kgあたり35mlの計算。
紫外線・冷え対策に長袖を1枚持ち歩く
ーー②の長袖というのは? 熱中症のリスクが高い日は外出を控えるのが前提ですが、外に出る場合は帽子や日傘、長袖で紫外線対策をしてください。日差しが直接、頭や肌に当たるとそれだけで体が熱くなります。
一にも二にも、体温の上昇を抑えることを最優先してください。
ーー夏に長袖か〜……。 今は通気性や速乾性がいいものがたくさん出ています。紫外線から守ってくれますし、暑い屋外から急にエアコンの効いた屋内に移動する時は冷えすぎも防いでくれます。
暑い屋外と寒い屋内の行き来を繰り返すと夏バテになりやすいので、長袖を1枚持ち歩くのはおすすめです。
ーー冷え対策ですね。 そうです。汗をかいたまま冷房の効いた屋内に移動すると、別の不調があらわれやすいので、汗はしっかり拭くようにしてください。
ーー③の「自律神経を整える」は、どうしたらいいんですか? 私たちの体温を調整してくれているのは自律神経です。自律神経の切り替えがうまくできない高齢者が熱中症を発症しやすいのも、そのためです。
自律神経を普段から整えておくことが大切で、日常的に発酵食品を食べる、青汁を飲む、お酒を飲みすぎないなど、胃腸に優しい生活を心がけてください。脳腸相関の観点から、腸の状態がよければ自律神経も安定しやすくなります。
睡眠も大切です。しっかり寝ることで自律神経が整い、熱中症予防につながります。
「もしかして熱中症かも」と感じたら?
ーー最後に、熱中症になった際の対策を教えてください。 熱中症には段階があります。口が渇く、頭痛がする、ぼーっとする、吐き気があるというのが初期症状。症状が進んでいくと筋肉がけいれんする場合もあります。
これらの症状が出たら、まずは涼しい場所に移動しましょう。冷やしすぎるのも体に良くないため、先に汗はしっかり拭き取ってください。
きつい衣服やネクタイを着用している場合は緩め、体から熱が放出されやすい状態にします。
ーー体温を下げることが優先なんですね。 はい、そうです。次に水分と塩分補給をしてください。経口補水液でもいいでしょう。30分程度経過しても回復が見られなかったり、症状が悪化する場合は、医療機関の受診をおすすめします。
ーーもし救急車を呼ぶ必要があるとすれば、どのタイミングですか? 意識が朦朧としている場合は、即、救急車を呼んでください。熱中症は命にかかわります。
寒暖差で夏バテになる人が多い
ーー冷えすぎに注意、という点も改めて教えてください。 暑い日が続くと、電車の車内やコンビニや飲食店など、寒い場所が増えますよね。寒すぎて体が震えることもあるくらいです。冷えすぎることによって体がダルくなったり、首や肩こりにつながったり、胃腸の不調を引き起こす人も少なくありません。
ーーこの時季は熱中症と合わせて冷えすぎにも注意なんですね……。 暑い場所(屋外)から寒い場所(屋内)の行き来を繰り返し、夏バテになってしまう人は多いです。
ーー冷え対策では何がおすすめですか? 暑いからといってシャワーだけで済ませるのではなく、しっかり湯船に浸かることが大切です。ぬるめのお湯に10〜15分ほど首までしっかり浸かりましょう。深部体温が上がれば血行が良くなり、汗もかき、いい睡眠にもつながります。
ーー なるほど。しっかりお風呂に入ります! 汗をかきにくい人は熱中症になりやすい傾向にあります。お風呂に入る習慣を続け、夏バテしない体質に改善していきましょう。
◇
「今年の夏は危険」という言葉で不安に駆られたが、基本のキさえ守れば熱中症は防げることもわかった。
外では防暑対策を、そして家のなかでもしっかり気温と湿度管理をし、自律神経が乱れない生活習慣を心がけよう。
体の冷えすぎによる夏バテにも要注意。帰宅後はすぐキンキンに冷えたビールを胃に流し込みたくなるが、ゆっくり風呂に浸かることも忘れずに。