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威信をかけて生み出した子供に優しい作り



脱ゆとり教育を経て、教科書の総ページ数は増えたといわれる。子供たちは、厚みと重さが増した教科書に加え、ノート、筆箱、連絡帳、タブレットなどを入れたランドセルを毎日背負うことになり、その重さは5kg近くにも及ぶのだという。

腰痛を抱える子供が増えたといった話題もあり、身体的な影響を危惧する保護者の声の高まりから、文部科学省が教科書などの勉強道具を学校に置いていく「置き勉」を認める通知を出すほどの社会問題になった。

「さらに我々が通学の様子を見て感じたのが、両手にもサブバッグや体操着袋など何かしらを持ち、首からは水筒を下げている子供が多かったということです。
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見ただけで身体への負担が大きいだろうと推測できましたし、もしつまずいて転んでしまったら危ないですよね。

直感的にすべてを入れられるランドセルができればと思い、これまで出張用バッグなどで採用してきた構造が転用できるのではないかと考えました」。

由利が持つデータでは、最も重たい荷物を背中に近いところに収め、徐々に軽いものを収納できる構造にすると軽く感じることがわかっていた。

同様の仕組みを採用し、いちばん奥にタブレットを入れるスペースを設け、次に教科書類のスペースを作った。すると空間にはまだゆとりがあり、給食袋や体操着袋に加え、絶対に入らないと思われた1.5Lの水筒も収めることができた。

「両手を空けることができた。これは安全だぞ、と。それに、実は魚網の再生生地の最大のメリットは予想外の軽さなのです。

今回のプロジェクトでも、従来の素材を使ったものと同じ太さの糸で編みながら、だいぶ軽く作ることができました」。

子供たちの身体への配慮は素材だけではなくデザインにも及ぶ。ショルダーバンドには由利が特許を持つ3層構造の特殊なクッション材を使用。バンドの内側と外側で硬度を変えることで、肩にピッタリと接着することを可能にした。

これだけでかなり感じる重さは変わるのだという。

さらに登山用バックパックなどに見られるチェストベルトも取り入れ、胸でしっかり固定することでランドセル内の荷物が動かないようにした。腰部のクッション材には出っ張りを持たせ、腰でも背負えるような工夫も採用。

こうして歴史ある鞄メーカーとしての知見を最大限に活かし、肩、胸、腰で背負う、幼い子供たちを優しく守るUMIは誕生した。
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故障に対しては万全の修理体制で対応

実のところ、UMIはランドセルではなく「スクールリュック」という呼称で展開している。ランドセルは日本で独自に進化発展した通学鞄。

江戸時代から続くとされる伝統と文化の発展、そして後世への継承を目的に発足した組織にランドセル工業会があり、同工業会が定める規格には次のようなものがある。

①すべての縫製が日本国内で行われ6年間の使用に耐え得るもの。
②日本鞄協会発行の「信頼のマーク」を縫着したもの。
③素材は皮革又は人工皮革とする。
④形状はかぶせ部が本体を覆う長さで縦型であるもの。
⑤サイズは大マチ部分の内寸の縦(最高部)が31cm前後、幅が23cm前後であること。


これらの規格を有するものにはランドセル認定証が付与され、一般的に「ランドセル」と呼ばれる製品として流通されることになる。
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それでも由利は名称にこだわることなく独自の路線を追求。名より実を取る形で、軽く、タフで、使いやすい通学鞄を生み出した。

「展開を始めて6年未満ですから、“入学から卒業まで問題なく使えますか?”と聞かれても、何とも言えないのが正直なところです。

それでもビジネス用のバッグを手掛けてきた経験と自負がありますし、もし故障をした場合にはすぐに代替品をお渡しして、修理も万全の体制で責任を持って行います。

お客さまには迷惑をかけまいという気持ちと、製品への絶対の自信を持って送り出しているのがUMIなんです」。

美しい海が目の前にある町で生まれた、海をきれいにする一助を担い、未来を担う子供たちを守るUMIは、現在のところ受注生産制で販売されている。

SDGsという流れも手伝い注目度の高まりを感じているが、「大きく宣伝して大量に売るものではないし、共感してくれた人に届けばいい」。

その見解からは、海と子供を守るためにも、息の長いプロジェクトにしていきたいといった実直な思いが伝わってきた。

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PIXTA=写真 小山内 隆=編集・文

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