今までの経験や知識を全て詰め込んだ〈ON THE HILL〉
2022年にオープンした〈ON THE HILL〉。入り口横には「花屋ぼたん」がお店を構えています。季節感を大切に考える岡本さんは、入り口では花に出迎えてほしいと思い自らお花屋さんを探して出店を依頼しました。
施設内にある「集集」というアンティークショップには、岡本さんが旅して集めた雑貨が並びます。「現場に来ないと手に入らない」と岡本さんが話すように、全て一期一会の一点物。また施設内にはコワーキングスペースも併設されています。
兵庫県三木市「花屋ぼたん」の姉妹店としてオープン。
「集集」には、岡本さんが集めた家具や古い印刷物、剥製などが置かれている。「断捨離とコスパ、楽してリッチを目指す現代に、時間をかけて物を探し、物に宿る思い出や形を蒐集する方が人生は豊かである」と岡本さん。
おしゃれなバーカウンターを備えたレストランは、開放感のある大きな窓が印象的。窓を覗くと、日岡山公園の景色が眼前に広がります。今までは1ヶ月に10人か20人ほどしか利用していなかった施設に、今は3000〜5000人が集まるようになりました。
「僕が最初に思い描いていた光景があります。それは加古川市を出ていった若い夫婦が子どもを連れて、久しぶりに里帰りをして地元の親に会いに来る。そのときおじいちゃんおばあちゃんが『近くに良い場所ができたから行こうよ』と子どもと孫を誘って、3世代で来てくれること。嬉しいことに、それがしょっちゅう起きているんです」。
レストランから見える景色は、日岡山公園の自然が最大限に活きるよう設計。
新しい教育の現場として機能する場
OAAはりまハイツは、もともと教育目的の研修施設でした。岡本さんはこの施設の本来の用途は大切にしたいと考えています。そこで「SCHOOL ON THE HILL」という場所づくりが学べる機会を用意しました。
「2ヶ月に1回、企業の方、行政の方、クリエイターというそれぞれのフィールド、役割で活躍している人に講師として来ていただき、その活動について講座を開いてもらいます。講座の終了後には懇親会の場を用意していて、感想を共有しながら学び繋がりもつくれる場所なんです」。
ミーティングやオフィスとして利用できる「Co-Working」。近隣の中学生に貸し出し、生徒会が開かれることもあるそう。
他にも自然の生態系を学んだり、自然のなかで遊ぶノウハウを学んだりする「LUMBERJACKS自然学校」やアートスクールなど、さまざまなプログラムを用意。
しかし岡本さんは、教育プログラムだけではなくこの場所自体を学びの場だと考えています。だからこそこの場所に集う人たちには、本物に触れられる機会を提供したいと調度品や細部にまでこだわりました。
「レストランで使っているスピーカーは、1950年代に映画館で使われていたものです。ここでは毎日レコードを回し、このスピーカーで音楽をかけている。良い音で音楽を聴いたことがあるというのもひとつの経験になるはずです。
美味しいものを食べたことがあるというのも一緒。いいものを知っているということは、正解を知っているということ。今後なにかを生み出すときや考えるときに、その経験が判断の指標になると思っています」。
バーカウンターを備えたレストランの様子。
岡本さんが考える一番の教育は、「身近な大人が、子どもにとって憧れの存在になること」だと語ります。
「僕が若いときは、映画を見て音楽を聴いて、雑誌や本を読んで誰かや何かに憧れました。海外に行きたかったのも、大学で勉強したのも全て憧れから始まっています。
あんなふうになりたいという理想の人がいることは、すごく大事なこと。そう考えるとバーだって、レストランだって良い勉強材料になるんです。大事なのはその場所に美しく、カッコよく生きる大人が関わっていること。
レストランに来た学生が、カッコよくバーで飲んでいる大人を見たらあんなふうになりたいと思うだろうし、自然のなかで思いっきり大人が楽しそうに仕事をしていれば、子どもはやりたがるでしょう。
子供たちが楽してお金を稼ぐことを理想としてしまうのは、あまりにも悲しい。お金を払っても経験できないことを、たくさん経験するのが人生の醍醐味だと思います」。
四季折々で景観を変える窓からの景色は決してお金では買うことはできません。太陽の下や水辺でおもいっきり遊ぶことも、人との出会いも、お金を持っている人だけができる娯楽ではないのです。岡本さんは楽しみを自分で見つけ出せることが、豊かさだと考えています。
類が友を呼ぶことで何かが生まれる
さらに、岡本さんはこの場所を人と人が出会う場所にしたいと語ります。
「加古川市には26万人も人口がいて、なにか才能を持っていたり、センスがよかったり、夢を持っていたりする人がたくさんいるはずなんです。でも才能を発揮する場所があまりなくて、他の都市に出ていってしまう人が多い。人と人が出会うことによってきっと生まれるものがあると思います。
実際、ここで出会った若者にプロジェクトに参加してもらったこともありました。1人では叶えられなかったことも、誰かと組んだことで実現することはたくさんあると思います。〈ON THE HILL〉のビジョンは「文化と自然の拠点で街を創る」です。類が友を呼び、同じ考えの仲間と新しい時代を創るほかないと考えています」。
〈ON THE HILL〉がこれからもっと地元の人に愛される場所になっていったとき、5年後、10年後の未来には加古川市はどんな街になっているでしょうか?
「影響力が増していけば、不可能だったことも可能になっていきます。現在、僕が公園に介入して何かすることはできないけれど、いつかは日岡山公園全体を加古川市民の誇れる場所にしていきたい。加古川市の持つポテンシャルを活かして、この街を楽しめる人が増えることが理想です。そうしたらここからカルチャーが生まれ、毎日をもっと加古川で楽しめるのではないでしょうか」。
2023年4月に開催したイベント「丘の上文化祭」では、市内外から40以上のお店が出店し、さまざまなワークショップや音楽イベントも行われ、2日間で来場者は2200人に達した。