『ハイプビースト ジャパン』阿部勇紀さん。1982年生まれ。ミュージシャンとして活躍したのち、2018年にデジタルメディア『ハイプビースト ジャパン』に参加。マネージングエディターとして世界中を飛び回り、最前のトピックスとカルチャーを発信する。
型にハマらない、我流をいく格好良さを持つ“トーキョーカルチャー”が今、再び世界から熱視線を注がれている。
そんなシーンのど真ん中にいるエディター・阿部勇紀さん。
彼や彼を取り巻く業界人のパーソナルを紐解く新連載「Feel So Good, Isn’t it? なモノ語り」が、オーシャンズ本誌の7月号からスタートした。
新連載「Feel So Good, Isn’t it? なモノ語り」とは……
センスのいい男たちは、どんな服に、ギアに、瞬間に、「Feel So Good=気持ちいい!!」と感じるのだろうか? 阿部勇紀さんやさまざまな業界人に聞く、自分流の「Feel So Good」なモノ選び。オーシャンズ7月号の初回では、世界で活躍するファッションキュレーター・小木“Poggy”基史さんが登場!
ルーツはNBAからのヒップホップ
1990年代に一世風靡し、今また映画でも話題を集めた名作コミック『スラムダンク』。連載当時、この漫画に熱を上げ、バスケットをはじめた人は数知れず。
かくいう阿部さんもまたそのひとり。そこからバスケットの本場でもあるNBAを知り、夢中になっていったそう。
「NBAはいちスポーツというだけでなく、僕にとってカルチャーの入り口でしたね」。
’90年代のNBAといえば、スニーカーをはじめとして、ヒップホップやストリートファッションなどのカルチャーをリードする存在。かのマイケル・ジョーダンを筆頭に、選手の一挙手一投足には世界中から注目が集まっていた。
阿部さんもその魅力にどっぷりと浸かり、NBAとヒップホップが、ともに自身のライフスタイルにまで影響を与えていく。
「20代はとにかく音楽漬けでしたね」とヒップホップをこよなく愛し、ある時期には自身もラッパーとして活動していたことも。
取材当日も80年代のBeastie Boysのヴィンテージスウェットを主役に、自身のルーツを表現したスタイルを披露。
重ねてきた音楽への思いは、仕事は変われど褪せず、阿部さんのルーツとしてさまざまなカタチで表現される。収集しているTシャツたちはまさにそのひとつだ。
「僕にとってノスタルジックな想いに浸れるところが『Feel So Good=気持ち良さ』なのかもしれません」とTシャツコレクションを見ながら当時の音楽を懐かしむ。
Mos Def、Company Flow、Shing02、映画『SLAM』をはじめとしたTシャツや、Nike SB Dunk High MF Doomのスニーカーなど、さまざまなヒップホップのグッズを収集する。身につけるものは聴いてきたアーティストだけ。
天邪鬼ゆえの“普通”がモットー
ルーツはヒップホップ。ではファッションも?という問いかけに対しては「いえ、いわゆるヒップホップ的な派手な格好よりシンプルな服が好きです(笑)」という意外な返答。
そのアンサーの背景からは、阿部さんのアンチテーゼが垣間見れる。
「中高生の時はファッションに重きを置いていましたが、音楽を始めてからは、いかにも“お洒落してます”みたいなファッションがちょっと軟派だなと思っていました。
当時は、現在のようにお洒落なラッパーとかDJが大勢いたわけでもなく、好きだったアーティストもイナたい格好している人が多くて(笑)。なので、あえて無地Tにシンプルなワークパンツや太めのデニムのような至極フツウかつ割と汚い格好をしていましたね(笑)」。
例えるなら、何周か回って現在のデムナのような装いだったらしい。
ヒップホップは好き、でも天邪鬼ゆえの普通を装うことが阿部さんのベースに。その価値観や好みは今も変わっていないそう。
「今も気づいたら同じようなものばかり買っていますね。シルエットが似ている黒いパンツとか。他人からしたら全部一緒に見えていると思います(笑)」。
なかでも最近のお気に入りは、古着店「ベルベルジン」の藤原裕さんから半ば強引に譲っていただいたというリーバイス501のブラックデニム。
「求めていた理想の色合いですね」と一目惚れ。見た目を重視した選定で、年代やヴィンテージなどにはこだわらない。
マイスタンダードなアイテムを着続けることで覚えた心地よさ。ブラックデニムは阿部さんにとって「Feel So Good」を象徴するひとつと言えそうだ。
「リーバイス501 ブラック」アメリカ製の’90年代もの。いわゆるレギュラーモデル。しかし藤原裕さんが所有していただけのことはあり、ブラックデニムにありがちなノッペリとした色落ちではなく、ヒゲがしっかりと入った秀逸な色落ちが特徴的だ。ヴィンテージの醍醐味である縦落ちなどは、あえて狙わないのも阿部さんのこだわり。
サイズはいつもジャストではきこなす。
アップデートは仲間と野村訓市さんから
ルーツを大切にしながらマイスタンダードな洋服を楽しむ阿部さん。一方で、仕事を通じてアップデートされる価値観も多いという。
「同い年のYOSHIROTTEN(ヨシロットン/グラフィックアーティスト)は、仕事仲間でもあり飲み仲間でもある間柄ですね。同年代の人が活躍するのは、職種は違えど刺激になりますよね」と阿部さんはうれしそうに笑う。
自宅にはYOSHIROTTENのアートプロジェクト「SUN」で制作されたオブジェを飾っているそう。「見ているだけで不思議と気分が落ち着くんですよね」と、今ではライフスタイルに欠かせないものに。
仲間の作品を機に、これまでは感じていなかったアートに対しての新しい気持ちが芽生えたという。「Feel So Good」な視点は、自身のセンスだけでなく、人を通じてもアップデートされていくのだ。
「YOSHIROTTEN SUN アクリルオブジェ」コロナ禍に制作をスタートし、1日1枚のイメージを1年間に渡り描き続けた365日の連作アート。ヴィジュアルは銀色の太陽をイメージしたもので、そこには同じ日は来ないからこそ、今日1日を有意義に過ごしてほしいという思いが込められている。ちなみに阿部さんが所有しているのは1月11日だそう。
同じく影響を受ける人としてマルチクリエイター・野村訓市さんを挙げ、「自分にとって先生みたいな人ですね」と慕う。
ときにはクンちゃんと呼ぶことも。「好きに呼べと言われましたので(笑)」。そんな野村さんから得たものは数えきれない。
ファッションはもちろん。昨年リリースしたカーハートWIPとのコラボアイテムは、阿部さんのマイスタンダードになるほどのヒット作。仕事という枠を超えて、さまざまなアドバイスをもらえるそう。
「カーハート WIP × 野村訓市」野村訓市さんの持つアイデアと、カーハート WIPの持つワークテイストを掛け合わせた心地良いセットアップスーツ。かしこまらない程度のきちんと感と男らしいワーク感のバランスが秀逸。阿部さんはジャケットだけで着ることも多いそう。どんな服でも楽々に決まる気持ちよさに、つい手に取ってしまうという。
「ひとえにどんな?とはくくれないですよね。刺激をくれたり、気づきをくれたり。人生全般においてその生き様から影響を受けていると思います」と話す阿部さん。
その眼差しからは、多くを語らずとも敬意を感じさせる。
「人を思う、慕うことからファッションがまた楽しくなる。それも僕にとって“気持ち良さ”の一部なのだと思います」。
オーシャンズの新連載「Feel So Good, Isn’t it? なモノ語り」、乞うご期待!