「モヤモヤ り〜だぁ〜ず」とは…… 本日の相談者:金融業・45歳「若手の育成のために、弊社ではチャレンジプロジェクトと称したアイデアコンテストを実施しています。
若手には失敗を恐れず斬新なアイデアを!と呼びかけているものの、どうしても無難なアイデアに落ち着いてしまう傾向があります。
自分の失敗談を語ったり、有名な失敗事例なども共有したりしているのですが、もっと効果的な方法はありますか?」
アドバイスしてくれるのは……そわっち(曽和利光さん)1971年生まれ。人材研究所代表取締役社長。リクルート、ライフネット生命保険、オープンハウスにて人事・採用部門の責任者を務めてきた、その道のプロフェッショナル。著書に『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『日本のGPAトップ大学生たちはなぜ就活で楽勝できるのか?』(共著・星海社新書)ほか。
本当に失敗しても大丈夫?
まず、確認したいのが、「本当に失敗しても大丈夫ですか?」です。
生き残ったものだけを観察対象とした場合、偏った結果が導き出されることを「生存者バイアス(Survivorship bias)」と言います。例えば、ある事故の生存者の話を聞いて、「その事故はそれほど危険ではなかった」と判断するということがあります。
しかしそれは、話を聞く相手がすべて「生き残った人」だから出てきた判断です。当然死んだ人たちの話を聞く方法はなく、それがバイアスにつながってしまうというわけです。
質問者の会社の「失敗事例」も、最終的な成功者の事例ではないでしょうか。多くの失敗した人たちは、そのまま落ちぶれていっていませんか。
失敗できる風土や制度はあるか
ビジネス界隈では本当によく「失敗したものは、チャレンジしなかったよりも偉い」的な美辞麗句が言われます。
経営者や幹部層はそんな風に高い視点で人を見ているかもしれません。しかし、実際日々の仕事において失敗をすれば、一緒に働いている直属の先輩や上司からやってくるのは多くの場合は叱責や低評価だったりします。
もし万一、そのようなちぐはぐなことが御社で起こっているとすれば、誰も失敗のリスクのあるチャレンジなどしないでしょう。
ですから、前提として、失敗が本当に評価される風土や制度(風土>制度ですが)を作ることが大切です。ここが崩れればどんなことをしても無駄でしょう。
自己効力感の低下が原因では
ここをクリアしている前提で話を進めます。
本当に失敗しても大丈夫なのにもかかわらず、それでも若者がチャレンジをしないのであれば、次に考えられるのが、自己効力感(self-efficacy)が低下しているということです。
自己効力感とは自分自身が物事を達成する能力を信じること(“I think I can”)で、この感覚が低下した際には失敗を恐れることが知られています。
若手が失敗を恐れる背景には、自分自身が物事を達成する能力を疑い、失敗を繰り返したくないと思っているのかもしれません。
確かに、国立青少年教育振興機構の2015年の調査によれば、日本人の高校生の7割は「自分をダメな人間だと思うことがある」と回答しています(米国は5割未満、中国は5割強、韓国は4割弱)。
適切な仕事アサインをしているか
自己効力感を高める方法は4つあります。
ひとつめは「成功体験」です。このためには、上司が部下の能力に見合ったレベルの仕事をアサインできているかが大切です。
少し背伸びをすれば手に届くゴール設定ができていなければ、彼らは日々無力感を感じて自己効力感を低下させてしまうことでしょう。
このためには、まず部下をよく観察して、彼らの能力レベルがどの程度かを正確に把握することと、仕事自体の難易度を細かく調べて、思ったより難しい仕事を丸投げしないようにすることが重要です。
アイデアコンテストで言えば、いきなりものすごい新規事業を期待せず、まず小さな改善から期待するということです。
失敗事例よりも成功事例では
ふたつめは「代理経験」です。実際に、誰かがやった例を示してみることで、「自分にもできるのではないか」と思わせるということです。
ただ、「失敗事例」をたくさん見せても「失敗したい」と思う人はいません。やはりここは「誰かの成功体験」を見せるほうがよいのではないでしょうか。人はネガティブなワードに引っ張られます。「失敗」+「してもいいよ」だと、前者の「失敗」に引きずられてしまうのです。
「こんな失敗もある」より、「こんな成功もある」とどんどん伝えましょう。かつ、「自分と似ている人が」というのが重要で、昔の大先輩の話ではなく、彼らに近い年代やタイプの人の成功事例をできるだけ挙げてください。
根拠を持って「君ならできる」と説得する
3つめは「言語的説得」です。要は「君ならできる」と誰かに励ましてもらうことです。ただし、とにかく褒めればよいというものではありません。
根拠もなく、「君ならできる(知らんけど)」とばかり言っては、「適当なことを言っている」と思われるのがオチです(それでもポジティブな言葉は一定の効果はあるようですが)。
「こういう場面でこういうことができた。だから君ならできる」というように、具体的な根拠を挙げて「できる」と説得しなければなりません。
それができるためにも、日頃から若手を観察しておいて、根拠となる具体的な言動を集めて覚えておかなくてはならないでしょう。
テンションが上がるイベントを
最後が「生理的・情緒的高揚」です。要は「テンションが上がる」ような心身の状態にするということです。
人は良い音楽を聞いたり、ノリの良いイベントに参加したりすると元気が出てきて「やってやるぞ!」となるものです。アイデアコンテストでいうならば、キックオフイベントを行ったり、募集ポスターを感動的なものにしたりするようなことです。
ただ、ここで気をつけなければならないのが、何をすればテンションが上がるかが、人や世代によって違うことです。おじさん世代のテンションが上がる「飲み会」も若者にとっては面倒なだるいだけの場かもしれません。
彼らのセンスや価値観にフィットしなければ逆効果です。
結局は、若手をきちんと観察することに尽きる
さて、以上が自己効力感を高めることでチャレンジを生み出す方法ですが、これらすべてに共通するのは(いつも言っているような気がしますが)、若手をきちんと観察するということです。
彼らの能力・性格・価値観を知っていなければ、適切な目標設定も、親近感の湧く事例の提示も、根拠のある励ましも、テンションの上がるイベントも何もできません。
特に、近年は若者に限りませんが、価値観多様化の時代ですから、世代を十把一絡げにするのではなく、個人個人を見ていくことが必要です。
日々、丁寧にコミュニケーションを取って、彼らをよく理解してみてください。「自分をわかってくれている」という気持ちが、最終的には彼らが安心してチャレンジできる素地となるのです。