▶︎すべての写真を見る 「貯蓄から投資へ」と政府は言うが、苦労して貯めた虎の子の金。失敗したくないと、二の足を踏んでいる人も多いだろう。
そこで投資に成功した先輩たちに、どんな落とし穴があるのか、その失敗談から学ぼうというのが、この連載。
第1回は、サラリーマン時代に副業で不動産による資産形成をはじめ、32歳で卒サラをした関西の不動産運営者、川村隼太さんに失敗談を教えてもらった。
リフォーム・収益不動産の販売、売買仲介を行う不動産会社「めりーほーむ」代表取締役、専業大家としての資産管理会社「エデュカルエステート」代表取締役・川村隼太さん(37歳)、兵庫県川西市在住。
大学卒業後、大手サブリース建築会社に就職し、副業で不動産賃貸業を行っていた。32歳で独立、現在の会社を立ち上げ、古くなった空き家の再生屋として活動している。いくつもの失敗をしながらも、現在では家賃収入で年間1億円を稼ぐ専業大家。
100万円で落札した56坪の山林は、水道が通らず八方塞がり
学生のときから不動産が大好きだったという川村さん。
大学4年生から競売に参加し、実際に最初の不動産を購入したのは就職1年目、23歳のときだった。
「競売はオークションと同じで、希望金額を提示して、その中で1番高値をつけた人が買えるんですね。だから、なかなか買えず、1軒目を購入できるまでに、気づいたら80回ぐらい入札をしていました」。
不動産による資産形成をはじめたころの川村さん。当時から定期的に大家仲間と集まって情報交換していたそう。
購入したのは名古屋市北区の1DKの区分マンションの1部屋で、落札価格は170万円。
諸経費や業者への代行料金などを含めると、210万円ほどがかかったという。購入した物件は家賃5万6000円/月で貸し出し、管理費1万円を引いて、4万6000円が毎月の副収入となった。
「社会人数年目で手取り20万円ぐらいのときに、給料とは別に5万円近くが毎月入ってくるって、すごく大きいことだと思いませんか? そのときの成功体験から、今後も不動産を買い進めることを決意しました。
それなのに、なかなか2軒目を落札できない。大家仲間にはすでに成功してサラリーマンを辞めた先輩もいるなかで、次に進めない、早く買いたいと焦っていました。
我々の間ではこれを『買いたい病』などと言っていますが、私もまさにその状態でした。そこで競売で何でもいいから安く買えば、とりあえず損はしないんじゃないかと思ってしまった。
これが1つ目の失敗の始まりです」。
焦った川村さんが25歳のときに購入したのが、56坪の山林の土地。
大阪国際(伊丹)空港近くの兵庫県川西市エリアで、鼓滝駅まで徒歩7〜8分の好立地。落札価格は100万円以下。ここに一軒家を建てる予定だった。
ところが購入してから、接道が“私道”で、建築するには掘削同意や近隣の承認も必要なことが判明する。
「水道ってどこでも通っていると思いがちなんですけど、開発道路のような私道の場合、敷地内まで水道も電気も通っていないことが多いんですよ。そこに水道を引くには、所有者の同意や水道加入金が必要になることがあるんです。
ところが、調べる限りその私道は、バブル時代に乱開発して潰れてしまった開発会社のものでした。同意を取りたくても、連絡先もわからない状態だったんです」。
一軒家を建てるにしても、急斜面で建築コストも高くなる。諸々の状況がわかってくると、完全に八方塞がりであった。
「木もいっぱい生えていて、業者に頼むと1本切るのに高いもので30〜40万円はかかってしまう。
そこで、休日のたびに足を運んで、自分たちで切れる太さの木を切ったんです。電気は新たに私設電柱を立てれば10〜20万円ぐらいで開通できることがわかったので、物置代わりになるようなプレハブ小屋を建てるところまではいきました。
ただ、じゃあここで何ができるのかと言ったら、水道がないから手も洗えないし、トイレも使えない。結局、山林で捕まえたクワガタを200〜300円で売るぐらいしか収益化する方法がないという……。
『あかんやん!』って、ようやくもう無理だと諦めがつきました(笑)」。
70万円の赤字も「この損失で済んだのはむしろラッキー」
諸経費やプレハブの設置などを含めると、かかったお金は150万円ほど。
だが、手放したくても、普通に考えれば誰も買うわけがない。かといって、手間をかけるほどお金もかかる。
「たまたま隣接する土地に、地元の建築業者の社長さんの家があったんです。そこは水道も通っているので、うちの土地を買い広げたら利用価値が高まり、庭が広がる形になります。
そこでその社長さんのところに、私が買ったときの資料を全部見せて『こちらが損をしてもいいので、もらってくれませんか?』と頼みに行きました」。
結局、社長の厚意もあり、入札額に近い86万円で売却できたが、建設したプレハブ小屋代などで、70万円ほどの赤字となった。
「ただ、このぐらいの損失で済んだのは、むしろラッキーだったと思っています。
不動産の価格としては、ほぼ最底辺と言って良いぐらいの金額でしたし、兼業大家の中では、大きな金額の不動産を相場より高く買わされて、損失が大きすぎて身動きが取れなくなってしまうケースもよくあることなので」。
高所得者向けの「あなただけのお得な情報」は破産の危険
ここで川村さんが教えてくれたのが「高値買い」という言葉だ。これは相場よりも高く不動産を購入してしまうことを指す。
「収益不動産は買うときが勝負ですが、相場よりも安く買うのは非常に難しい。ただ逆に、安く買えれば買った瞬間に利益は確定します。
ところが、不動産投資の勧誘で『あなただけのお得な情報です』というセールストークに引っかかって、言われたままに相場よりも高く買ってしまう人が結構多いんです。
特に、年収1000万円を超える高所得者や医師、一部上場企業の役員の方などで不動産運営を始めたばかりだと要注意ですね」。
2018年に社会問題化した「かぼちゃの馬車」事件などは、その典型だという。
「かぼちゃの馬車」とは、不動産会社「スマートデイズ」が建設・運営していた女性専用シェアハウスの名前。不動産運営を肩代わりするサブリース契約*を利用し、“長期にわたって一定の家賃収入を保証する”という謳い文句で、相場より高い価格で不動産運営者に販売していた。
ターゲットは、医者や公務員、副収入を得たい会社員たち。
が、同社は数年のうちに経営破綻。賃料の支払いがされなくなったため、不動産購入者自身が多額の借金を抱えることに……。その結果、自己破産する人が続出し、世間を騒がせた。
※「サブリース契約」とは、サブリース業者が物件のオーナーから賃貸住宅を一括して借り上げ、入居者の募集や管理などの不動産運営を行い、それによって得た賃料から手数料を差し引いた額を、オーナーに支払うという仕組み。
例えば、本来であれば銀行評価が1億円程度の収益不動産で、相場が1億5000万円くらいの物件であっても、2億円という高値で提案されたり、売り出されているような物件もあるという。
しかも、年収1000万円以上の高所得者だと、銀行から2億円の融資が通ってしまうことがあるそうだ。
そうやって高値買いした物件は、買った瞬間に5000万円の含み損や多額の負債を抱えることになる。
「一般的な話では、年収1000万円の方には、通常年収3年分ほどの(後から支払いができる)与信があると言われています。その与信をもとに、(初回か数回だけは)1億円から2億円ぐらいは借り入れができてしまうのです。
ただし、高値買いをしてしまうと債務超過状況になるので、銀行評価は下がり、その後は不動産を買い進めることが難しくなります。
また、うまく運営できれば家賃収入で返済できますが、入居率が悪かったら毎月持ち出し(自己資金から負担すること)となります。
それを避けるために売却したとしても、場合によっては数千万円の持ち出しをしないと売り逃げられないこともあるんです。持っていても含み損、売っても損切をして負債として残ります」。
つまり、高値買いした物件を売るとなると、損切した分を現金で補ってリセットするか、その費用を用意できない場合は自己破産をするしかないわけだ。
「そう考えると、私の失敗は70万円ですから、勉強代としては安い方です。とはいえ、若手サラリーマンが失敗するには、あまりにも大きな金額でしたが」。
再び失敗!300万円で改修したのは不安定な「農地」の平屋
一時は不動産での資産形成を辞めようと考えたこともあったが、それでも諦めずに続けた結果、着々と戸数を増やし、不動産収入が本業の収入を上回ったところで卒サラ。
同時に、現在経営する不動産会社「めりーほーむ」を設立した。
だが、独立後に2つ目の失敗を冒してしまう。
買ったのは、兵庫県丹波市にある800平米の庭付きの広々とした平屋。『天空の城ラピュタ』に出てくるような美しい景色が臨める竹田城の近くで、同県でも人気のエリアだという。
「売主が『タダでもいいから、いらん』と言うので、その平屋を20万円で購入しました。買ったときは大変な状態で、庭に井戸はあるわ、残置物も多くあるわ、大きな木は生えているわ……。
草むしりも必死でやって、平屋は200〜300万円かけて改修しました」。
しかし、ほぼすべての改修が終わったときに、司法書士から一本の悲報が届く。
なんと、購入した物件の土地は“農地”だというのだ。
日本には農地法があり、基本的に農地は田畑以外の目的に活用できない。宅地に転用する場合は、農業委員会の許可が必要となっている。この申請がなかなか通らない関門なのだ。
さらに、農地法5条に基づき、農地を購入する場合は、買主がすでに一定規模の農地を持っているか、農業用の機械を持っているかなどの審査基準がある。
それ故、土地自体は元の売主が所有したまま、建物のみ川村さんの持ち物というなんともアンバランスな状況になってしまったのだ。
「購入した平屋の先代は、農家だったようです。会社を設立したばかりで、そんなことを知らずに買ってしまって。
農業委員会に宅地への転用申請をしましたが、このエリアで前例もなく、買主が購入基準に満たないとのことで許可がおりませんでした。
売主さんに『宅地に転用できず、弊社に所有権を移転できないのでお返しします』と言ったら、『タダでもいらないからお前らに渡したんだ! そっちでなんとかせえ!』ってめちゃくちゃ怒られて(笑)。
もっと早く気づいていれば平屋代の20万円の損失だけで済んだのですが、すでに200万円もの改修費をかけてしまったので……。
幸いにも家賃5万9000円で入りたいという方がいたので、売主さんに土地の利用承諾をもらって、
うちが貸している状態です」。
今後、売主が「そこの農地の利用を認めない」と言ってきたら、打つ手はない。
「ただ、物件の利回りは30%と非常に良い物件なので、リフォーム代は3〜4年で回収できる計算です。もし、リフォーム費用を回収できた後に返せと言われたら、建物の権利は渡していいかなと思っています。
まぁ、結局、問題の先送りです(笑)」。
リフォーム会社の社長が逮捕され三度失敗!安い話には裏がある
もうひとつ、川村さんにとって忘れられない失敗が、大阪府枚方市の戸建て住宅。24万円で購入し、約160万円をかけてリフォーム予定だった。
「この物件はぼっとん便所だったので、下水を引く必要がありました。下水を繋ぐためには、指定工事店を使う必要があるのですが、配管を一本繋ぐだけなのに、100万円近くかかることもザラなんです。
ただ、うちがお願いしていたリフォーム店さんはいつも良心的な価格でやってくれていて、我が家のリフォームもお願いしていたぐらい信頼していました」。
ところが安い話には裏があった。
なんとリフォームが安かったのは、指定工事店の認可を取っていなかったからだったのだ。無申請で工事を繰り返していた可能性が出てきて、その工務店の社長は逮捕されてしまう。
結果、川村さんの物件はリフォーム途中で中止。資材も置きっ放しの状態だった。
「唯一の救いは、社長が逮捕されたことで、こちらに改修費の請求が来なかったことです。だから損をしたのは、物件の購入代金24万円に加え、そこに何度も足を運んだ労力と交通費程度。
他の工務店に頼むと300万円以上リフォーム代がかかるとのことで、それならば購入代金と同じ24万円で売って、違う案件に注力したほうがいいと判断しました」。
たまたま隣のアパートの所有者が大家仲間だったこともあり、まとめ売りができるからとほぼ買値と同じ金額で買い取ってもらうことで決着した。
購入時に勝敗が決まる。まずは300万円からトライ!
3つの失敗から川村さんは何を学んだのか。
「失敗したときにどう動くかです。嫌になったり辛いこともありましたが、私の場合はやはり不動産が好きで、不動産賃貸業という副業で稼ぐという覚悟がありました。
だから失敗をしても工夫をして、不動産賃貸業の魅力が上回るように考えてきました。その結果、今があるのです」。
最後に不動産投資を考えている人にアドバイスをもらった。
「不動産を買いたいと思っていても、なかなか買えない、どうやって運用したらいいかわからないという人が多いですよね。
そういった人は、利回りは13〜15%ほどでいいので、現金で買える300〜500万円くらいの物件からまずはチャレンジしてみるといいでしょう。そこで不動産賃貸業が自分に合わないと思ったら、同じ値段で売り出せばいい。
ただし、先ほども言ったように、不動産は買ったときに勝負が決まります。最初に相場より安く買えれば、運用が難しくなっても、購入時と同じ値段で売れればいいわけじゃないですか。
だけど、高値買いをしてしまうと、どれだけ頑張って運営しても勝ち目がない、ということは覚えておきましょう。相場観を身につけるためにもこまめにネットなどで物件を見て、目を養っておくといいですよ」。
良い物件さえ購入できれば、運用の労力はさほどかからない。不動産賃貸業が「最強の不労所得」と言われる所以だ。
川村さんもいくつもの失敗を経て、年間の家賃売り上げ1億円を超えるまで事業を成長させた。
リスクが大きいだけに、易々とは行動に移せないものだが、まずは目を養うところから始めてみてはいかがだろう。