⑦『ガンニバル』全13巻、計2568ページ
予想読了時間=約10時間42分
『ガンニバル』二宮正明著、週刊漫画ゴラク(日本文芸社) コミック版で計算。
読めば嫌な気持ちになるとわかっていても、“悲劇”(バッドエンド)に心が惹かれる大人たちへ贈る問題作『ガンニバル』。今年2月にはディズニープラスの目玉作品としてドラマ版も配信された。
テーマは人類における最大のタブー「食人(カニバリズム)」。それを聞いただけでも、この作品がハッピーエンドであろうはずがない。とにかく、後味悪くて悪意たっぷりのダークサスペンス……なんだけど、怖いもの見たさで読み進めていくと、これが面白いのだ。
そして、これを面白いと感じてしまう「罪悪感」も込みで面白い。
都会から遠く離れた山間の村「供花村」。この村でただ一人の駐在警官が、ある日忽然と姿を消す。「この村の人間は人を喰っている」という言葉を残して……。
物語は、後任の駐在員である主人公・阿川大悟が妻子と共に供花村へ赴任してくるところから始まる。次々に起こる異常な出来事を調べていくうちに、大悟はこの村に隠された真実へと迫っていく。
異常なまでに血族意識が強く、古くから村の実権を掌握してきた怪しき一族「後藤家」の存在。その後藤家を畏れ毛嫌いしながら、阿川一家を笑顔で監視し続ける村民達の視線。そして、村に伝わる異様な風習や儀式の数々。
作中ずっと続く、どことなく不穏な雰囲気や、読み進めるうちに後戻りできない深みにハマりこんでいく嫌な感じをたっぷり味わえてゾクゾクすること間違いなし。
テーマの通り、殺人やグロい描写なども描かれている。が、それ以上に住民達のキャラクター設定や心理描写による不気味さ、「村八分スリラー」とも呼べる村社会特有の同調圧力の脅威など、暴力シーン以外の表現でも恐怖心や不安感を煽られる良質なサスペンスだ。
そもそも、我々が生きる現実こそ、ハッピーエンドよりバッドエンドや理不尽なことの方が多い。そんなわけで、無駄にポジティブで感動的なストーリーを見せつけられる方が興醒めしてしまうのが必然。
だから、思う存分にこのストーリーを楽しんじゃっていいのではないかと思う。深い悲劇に感情をズタボロにされて、それでも俺たちはバッドエンドをやめられないのだから。