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喜多見先生の勇姿を見ると僕も元気になります



このたび約2年という時を刻み、あの医療チームが帰ってきた。劇場版『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』で、喜多見幸太が再び奔走する。

「喜多見自身、ドラマシリーズの終盤で妹(佐藤栞里)を亡くし、人としても医師としても絶望していたなか、最終話でチームのメンバーのおかげで立ち直ることができ、もう一度未来へ向かって歩みを進めるようになりました。でも彼も気付いていなかったのですが、妹の死はそう簡単に乗り越えられるものではなく、しばらく尾を引いていたんです。

前作では、喜多見自身が本当の意味で彼女の死を乗り越えようとすると同時に、仲間の大切さや命の尊さに気付く。ドラマは喜多見に影響を受けて周りが成長していく物語でしたが、今作では喜多見が周囲から刺激を受けて成長するという内容になっています」。

喜多見は家庭を顧みずに仕事に邁進するキャラクターだが、自身のプライベートについて訊くと、バツが悪そうに「演じることが好きなので集中してしまうんですよね……」と。

「仕事が忙しくなると、自分でも気付かないうちに心がいっぱいいっぱいになってしまうんです。だから仕事熱心な喜多見の気持ちも、家族との時間が少ないことに不満を持つ妻の千晶(仲里依紗)の気持ちも非常によくわかります。ただ実際、喜多見によって救われている人もいるわけで……。

喜多見という男は、仕事以外に関しては完璧な人間からは程遠いからこそ、多くの方に共感していただけるのだと思いますし、特に今回の劇場版では人として不完全な部分がより際立っています。僕自身も喜多見ってこんなにダメなやつだったんだということが初めてわかったくらい(笑)」。

人命救助こそが喜多見の仕事の原動力になっている。鈴木にとっての仕事への原動力とは何なのだろうか。

「作品を見た人の心を動かすことです。人を救うことが自分の生き方であると喜多見自身は信念を持ってやっていて、どんなに危険な状況でも人の命を救うためなら飛び込んでいくわけですが、そんな彼の勇敢な姿勢を見て僕も勇気をもらえます。

そして見ていて心を揺さぶられる方が多いというのは、フィクションの世界で喜多見先生のような人を見たいという気持ちがあるからだと思うので、そこは意識して向き合っています。

でも、やみくもに危険に飛び込むことが正解だとも思いません。ですから本作では、彼のそういった正義感や美徳だけでなく、もっと人間の根源的な部分も大事に演じました」。



多くのけが人が事故現場で横たわる惨状や緊迫のオペシーンなど、リアリティのある描写や空気感は本作の魅力のひとつ。だが、単にリアリティがあるだけではドキュメンタリー作品とそう変わらない。

映画やドラマの現場では演者も制作陣もリアリティのある世界を前提として作るが、それだけでは人の心を動かすことはできない。

リアリティにとどまらない本作ならではの要素とは何なのか。鈴木は虚空を見やりしばし黙考すると「キャスト全員の信じる力といいますか」といいながら続ける。

「僕を含めたTOKYO MERのメンバーがいかに真剣に、キャラクターとしてのお芝居のみならず、物語全体の世界観に没入しているかが大事なことだなと。そういう強い気持ちがないと、見ている人は離れていってしまうと思うんです。

ご存じのとおり、キャストの皆さんがあれだけ情熱を持って役柄や世界観と向き合ってくれているからこそ、見ている人の心が大きく揺さぶられる世界観が構築できるのだと思います」。

最後に、過酷を極める撮影現場にあって、気持ちいいと感じる瞬間を語ってもらった。前述のTOKYO MERメンバーの魅力が垣間見える微笑ましいエピソードだ。

「オペのシーンで、僕が専門用語を使ってたくさん喋らなくてはいけないシーンがあって、かなり追い込まれていたのですが、そのときに『チーフ大丈夫ですか?』と、ほかのメンバーが気遣ってくれたんです。

本当に泣きそうだったので冗談半分で『誰かにそっと抱きしめてもらいたい気分です』って言ったら、帰り際にみんながそっと抱きしめてくれて。その優しさが温かくて泣きそうになりました。

そうそう、ちょうど今日のお天気のような気持ち良さでした(笑)」。

インタビュー終了後、「あー、楽しかった」というと静かに席を立ち、ゆっくりとその場をあとにする。春の優しく温かな陽射しにも、TOKYO MERメンバーの愛情に勝るとも劣らない、超気持ちいいあの笑顔を残して。
鈴木亮平●1983年3月生まれ。兵庫県出身。2021年7月期にTBS日曜劇場枠で放送された救命医療ドラマ「TOKYO MER〜走る緊急救命室〜」が、劇場版『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』として映画化。ドラマでもお馴染みのチーフドクター・喜多見幸太役を熱演している。4月28日(金)に公開予定。


横山泰介=写真 徳永貴士(SOT)=スタイリング Kaco(ADDICT_CASE)=ヘアメイク オオサワ系=文

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