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2023.05.04

ライフ

幻の魚「サハール」をネパールで釣って食った話。プロ登山家・竹内洋岳、かく語りき


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ブータンからネパール、チベット、インド、パキスタンへとまたがるヒマラヤ山脈は、「世界の屋根」と呼ばれる。

文字通り地球上のてっぺんであり、世界最高峰である標高8848mのエベレストをはじめとした8000mを越える山々が14座も連なる。

竹内洋岳さんは、日本人で初めて8000m峰14座登頂に成功したプロ登山家。足掛け30年、登頂できなかった山もあわせると、これまで30回以上ヒマラヤに通ったネパール通でもある。

竹内洋岳●プロ登山家、立正大学客員教授。2012年にダウラギリに登頂し、日本人で初めて8000メートル峰14座完全登頂を達成。2013年文部科学大臣顕彰 スポーツ功労者顕彰、植村直己冒険賞、秩父宮記念山岳賞を受賞。著書も多数。

竹内洋岳●プロ登山家、立正大学客員教授。2012年にダウラギリに登頂し、日本人で初めて8000m峰14座完全登頂を達成。2013年文部科学大臣顕彰 スポーツ功労者顕彰、植村直己冒険賞、秩父宮記念山岳賞を受賞。著書も多数。


昨秋、竹内さんは「山に登らない」ネパールの旅を決行。その様子を3回にわたってお届けしたい。

初回は、ポカラ近郊にあるベグナス湖を訪れ、神の魚とも呼ばれる「サハール」を釣るストーリーだ。


地元民も滅多にお目にかかれない“神の魚”

ポカラ近郊にあるベグナス湖。かつて竹内さんが登頂した山々を望む絶景エリア。

ポカラ近郊にあるベグナス湖。かつて竹内さんが登頂したヒマラヤの氷雪嶺を望む絶景エリアだ。


ネパールには“神の魚”が生息している。サハールである。

個体によっては1mを超えることもあり、ピンクゴールドに輝く大きな美しい鱗を持つがゆえ、ゴールデンマハシールとも呼ばれている。

ネパールの漁業は主に網を使うが、サハールは網にはかからないとされているため、釣れることはまれ。首都カトマンズの魚屋に並ぶことはほとんどなく、川沿いや湖のほとりの魚屋でたまに見かける程度だ。

幼少の頃から釣りに親しんでいたこともあり、竹内さんは大の釣り好き。

幼少の頃から釣りに親しんできた竹内さんは、いまも大の釣り好き。


今回訪れたベグナス湖は、ネパールで指折りの観光地であり、カトマンズに次いで人口の多いポカラの近郊にある。

ポカラとは「湖」という意味であり、付近には7つもの湖が点在する。なかでもベグナス湖はモーター付きの船を入れておらず、中心にある最大の湖「ペワ湖」と比べても、まったく静かな環境だ。



手漕ぎボートに乗って、いざサハール・ハンティングへ。ボートに腰を下ろして、じっくりと釣りにいそしむ算段である。

とは言いつつ、竹内さんのサハール釣りは実のところ今回で5回目。ボートの漕ぎ手がガイド役も担ってくれるのだが、そのうちのひとりは9年前に世話になった男性だ。

前回は、釣りの玄人が7人集結し、およそ1週間弱腰を据えた。結果、サハールは4尾釣った。そのうちの3尾が竹内さんであったが、今回は孤軍奮闘。

9年前に訪れた竹内さんを覚えていたガイド役のラル・タマン。

静かな湖面に竿を振る音が響く。深い緑の森と山の先にはダウラギリ、アンナプルナ、マナスルという竹内さんがかつて登頂した8000m峰もそびえる。

しかしそれにしても、釣れない。初日の午後、翌日の早朝から丸一日船を浮かべたが、竿にヒットする兆しはない。

「明らかに9年前と、湖の状況が異なるなぁ」と竹内さんは唸るが、サハールだけでなく、サハールの餌となる小魚の影すらない。

のちにわかったことだが、湖畔に建物が増え、生活排水が多く出るようになったことや、水温が上がったことが理由のようだ。


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