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2023.04.04

ライフ

話題の単語「コンヴァージェンス・カルチャー」の意味、答えられますか? 翻訳した阿部康人さんに聞きました


当記事は「FUTURE IS NOW」の提供記事です。元記事はこちら

未来の定番になると予想する言葉を取り上げて、その言葉に精通するプロの見解と合わせながら、新しい未来の考え方を紐解いていく本連載。

今回は「コンヴァージェンス・カルチャー」をご紹介します。

コンヴァージェンス・カルチャー【参加型文化/Convergence Culture】
コンヴァージェンス・カルチャーとはメディア研究の第一人者で南カリフォルニア大学教授のヘンリー・ジェンキンズ氏が、2006年に出版した著書『コンヴァージェンス・カルチャー―ファンとメディアがつくる参加型文化』(邦訳)のなかで提唱した考え。技術・テクノロジー(古いメディアと新しいメディア)、産業・ビジネス(草の根メディアと企業メディア)、そして文化および社会(メディアの製作者とメディアの消費者)の3つの分野で生じている変化について理解することを目的につくられた言葉。
今回は、同著書の邦訳に携わった、同志社大学社会学部メディア学科准教授の阿部康人(あべ・やすひと)さんに話を伺いました。ジェンキンズ氏が、コンヴァージェンス・カルチャーを提唱するに至った時代背景を次のように説明します。

「ジェンキンズ自身、幼少期からポップカルチャーの大ファンでした。そこで、メディア学を学ぶために大学院に入ったわけですが、その最初のセミナーで、ファン=受動的な人たちとして、ネガティブに捉えられていたことに疑問を感じたそうです。本人の体験を通じても、そうした理論には納得がいかないと。

この経験がのちのコンバージェンス・カルチャーの考えに影響していると、彼の講義で聞いたことがあります。ただ、1980年頃まではファンが創作物を主体的に解釈し、自分たちの物語を紡ぐのを目にする機会が今より少なかったのもあると思います」

以前は情報を消費する側面のみが強調されがちだったファンですが、近年その行動に変化が見られると阿部さんは語ります。「たとえば、最近では、ファンたちがお金を出し合って、好きなアーティストの広告を駅構内やビルのモニターに掲出する応援広告なども話題です。このようなファンの主体的な行動は、まさに参加型文化の例だといえます」

 2020年にタイで行われた反政府デモの様子。「かつてはメディア企業がほぼ独占していたハム太郎というコンテンツの持つ意味が、タイの若者の参加によって改変されました。日本のマスメディアのコンテンツが消費者と前もって予見できない影響を及ぼしあっている点がコンヴァージェンスカルチャーの事例ですね」と阿部さんは語る。

 2020年にタイで行われた反政府デモの様子。「かつてはメディア企業がほぼ独占していたハム太郎というコンテンツの持つ意味が、タイの若者の参加によって改変されました。日本のマスメディアのコンテンツが消費者と前もって予見できない影響を及ぼしあっている点がコンヴァージェンスカルチャーの事例ですね」と阿部さんは語る。


とりわけ1990年代以降、インターネットの出現により、メディアと市民の距離が近まりました。こうした事象は、ファンの活動にどう影響をもたらしたのでしょうか。

「実はインターネットが普及する前も、例えば、ハーレクイン小説を批評するなど、能動的なファンは存在していました。では、インターネットがもたらした影響は何かというと、能動的なファンを『可視化』したんです。すると、ある一人の能動的なファンの活動を見た別のファンが、発表される作品について発言し、自分たちも創作活動に加わってもいいんだと勇気づけられるわけです。そのような学びの機会が共有されることを通して、能動的なファンの活動も広まっていったのだと推測しています」

作品がおもしろくないと感じたとき、運営に不満があるとき、ファンはみんなで声を挙げる。すると企業側も何かアクションをせざるを得ません。結果としてファンと企業との間にコミュニケーションの経路が開かれます。ファンが自分たちの行動を通して企業とのコミュニケーション経路を開いたという成功体験を得ることで、知らない人同士でも、みんなで協力すれば世界は変えられると気づくそう。この気づきこそが重要だと阿部さんは話します。

「コンヴァージェンス・カルチャーが社会に与えた一番大きな影響は、企業とファンの関係性を変えたことです。加えて、コンヴァージェンス・カルチャーが社会変革の資源をもたらした点も見逃せません。ファン・アクティビズムとも呼ばれますが、ファン活動を通して、人権問題を知り、人種差別が浸透する社会を変えようと運動し、その活動やプロジェクト自体がプラットフォーム化した例もあります。メディアだけに限らず、政治などほかの分野にも影響を与えられるという部分に、僕自身もおもしろみを感じています」

5年後のファンコミュニティはさらに複雑になるだろうと阿部さん。一方で、大学や会社、家庭で学べない、新しいことを学べる場所になっていくのではと続けます。

「ファンコミュニティは、よい市民、つまり『ものいう市民』をつくる場として機能していくと思います。大学や会社に入るのには、試験や面接などがありますが、ファンコミュニティには基本的にどんな人でも入ることができます。そこではある程度の多様性が生まれ、さまざまな人の意見にも触れることができる可能性が生まれます。

これらのコミュニティがサードプレイス(第三の場所)として活性化し、そこにいる人々が自分自身や世の中について家庭や自分が所属している組織のなかではなかなか学ぶことができない何かを学ぶことができるようになると、人生というものがより豊かになっていくのではないでしょうか」

文:大芦実穂
記事提供:FUTURE IS NOW

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