アンデスの先住民たちとがっちりタッグを組んだビジネス
アルパカが生息するのはアンデスの標高3500〜5000m地帯。夜は−10℃で日中は15℃という、一日の寒暖差が25℃に及ぶ厳しい自然環境だ。この環境で飼育してこそ、アルパカの原毛は本来のサーマル機能(寒いときに暖かく、暑いときに熱を逃がす機能)を備える。
「アルパカの原毛を触ったときは本当に驚きました。こんな素材があったのかと。柔らかく、ぬめるようなシルキーな手触り。そしてウールやカシミヤよりも美しい光沢がありました」(聡さん)。
ふたりはアルパカの素晴らしさを知ると同時に、アンデスの先住民たちの過酷な労働環境も目の当たりにした。
南米最貧国といわれるボリビア。そのなかでもアルパカ産業に従事する先住民たちの暮らしは、極度の貧困状態にあるといわれている。
「200〜300頭程度のアルパカを飼育して生計を立てている小さなファミリーは、本当にギリギリの生活を送っているんです」(清史さん)。
ボリビアの先住民たち。日干しレンガの質素な住宅に暮らすファミリーも少なくない。「彼らは人に優しく、とてもよく働く民族です。でも怒らせると怖い。誇り高く、タフな心を持っているんです」と聡さんは言う。
こんなに素晴らしい素材を作る人たちが、なぜここまで貧しいのか。その不公平を解消するために、ふたりはシンプルかつ大胆な方法をとる。
自分たちで繊維を買い取ってニットを作り、販売し、その利益を先住民に還元するというビジネスだ。
「今までどんなファッションブランドも、僕らのように先住民とがっちり組んだビジネスはしてこなかった。でも僕らは今、この地域でいちばんいい繊維を手に入れることができて、いちばんいい工場でニットを作ることができます。
なぜなら先住民と彼らの生活、そしてアルパカに対して、心からの敬意を表してきたからです」(聡さん)。
ペルー第2の都市、アレキパにあるニット工場。この工場との出会いが、製品のクオリティを格段にアップさせた最大の要因である。聡さんと清史さんが、アルパカ繊維に関する基本的な知識や規格、編み方や織り方を学んだのもここ。
もちろんここにいたるまでが平坦な道であるはずもない。ゼロからのニット作り。ファッション業界へのPR。製品に合わせた、ボリビアおよびペルーの2カ国での生産。
何より近年まで、ザ イノウエブラザーズの活動資金はふたりの私費だった。聡さんのグラフィックデザイナーとしての収入と、清史さんのヘアデザイナーとしての収入を充てていたのである。
サステナブルなビジネスはきれいごとでは成り立たない。地を這うような不断の努力と信念が、その継続を可能にするのだ。
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