3. 青木千絵(漆)
艶のある漆黒の塊に、すっと足が伸び、横たわったり座り込んだり。青木は、金沢美術工芸大学大学院美術工芸研究科を修了し、不安や孤独を抱えながらも強く逞しく生きる「愛おしい人間の存在」を表現する漆作家だ。
「漆芸による彫刻的表現によって、工芸と現代アートを結びつけている重要な作家の一人。近・現代アートでは、表現の出発点となる『私』を起点に作品を制作する。その意味で青木は、漆芸という工芸技術を使用するが、完全なるアーティスト思考の作家である。
近年の海外での漆の評価に青木の作品が一役買っているほど人気がある。時には、社会的・政治的文脈で読み解かれ、青木が女性作家ということもあり、ジェンダー的な視点で解釈される」と秋元さんは説明する。
4. 佐々木類(ガラス工芸)
暗闇に青く光るガラス蓄光型の作品群は、海に浮かぶクラゲのようにも見える。ガラスには、植物や雪が閉じ込められ「物ごとの記憶を保存する」作品を展開する。
佐々木は2006年に武蔵野美術大学を卒業したのちは、アメリカでガラスと現代美術を学び、現在は金沢を拠点に活動する。
秋元さんは「佐々木類は、存在論的なテーマで作品を制作しており、自分と周りの環境、世界との関係をガラスという素材を通して確認する、あるいは測る、記録する、ということを行っている作家。その痕跡が作品と呼ばれるものになっている。つまり私たち観客は、佐々木が何がしかの行為を行った痕跡を眺めているということ。
作品と言われるものは、時に植物や雪とガラスによって生じた現象であり、痕跡である。それは佐々木の生きた証を眺めているということであり、時間を共有することでもある。一種の日記のような作品とも見ることができる。コンセプトを重視する現代アートの文脈で取り上げた方が理解しやすい」と語る。
5. 牟田陽日(陶芸)
小さな陶磁器にも、色絵の技法を主軸に動植物や神獣などが繊細に描かれるが、その絵柄は現代的でインパクトがあり力強い。
牟田はアートの中心地・ロンドン大学ゴールドスミスカレッジ ファインアート科を2008年に卒業したのち、12年に石川県九谷焼技術研修所を卒業。現在は石川県能美市に工房兼住居を置く。ファッション誌「VOGUE JAPAN」2023年1月号では伝統を革新する表現者のひとりとして取り上げられた。
「活躍する女性アーティストの中で、工芸というジャンルで力強い表現を産んでいる作家のひとり。九谷焼というローカルな焼物を現代的な表現へと昇華しようとしているところが興味深く、現代的な試みだと思う。また、磁器の絵柄として伝統的に使用されてきた吉兆の図柄や縁起物の図柄を今風な漫画的なものへと変換して、伝統と現代の融合を牟田のやり方で実践しているところが面白い」。
牟田の特徴は「フットワークの軽さとその仕事量、それにプラスして、ぐい呑みや小皿から大型インスタレーションまでをこなす表現の幅広さにある。牟田もまた、現代アートと工芸を難なく飛び越える作家である」と、秋元さんは解説する。
特に新しい工芸表現を拓く「KOGEI」の分野では、女性の台頭が著しいという。また、日本の伝統的な工芸技術を巧みに取り入れながら、自身の表現を追求する5人の作家たちは世界にも自らを開き、評価されている。枠を取り払う彼らの突破力は、過去と未来を繋げ、工芸と現代アート両者の世界線を変えていく。