画家・現代美術家の井田幸昌、32歳。
当記事は「Forbes JAPAN」の提供記事です。元記事はこちら。 「絵なんてわかってたまるか」
渋谷のスクランブル交差点に大きく掲出された2枚の広告。グローバルに活躍する画家・現代美術家、井田幸昌のメッセージだ。とはいえ決して画家が匙を投げたわけではない。
Photo by RK / (Instagram @rkrkrk)
そのうち一枚を詳しく見ると、こう書かれている。
アートがわからない。絵がわからない。そんな言葉をよく耳にするけど、画家だろうと絵なんてわからない。アートや絵が何なのかなんて誰にもわからない。わからなくて、当たり前。わからないから、描いてる。今も昔もこれからも、一生。わかってしまったその日にはきっと描く理由を失うだろう。わからないから、楽しいんだ。 絵なんてわかってたまるか画家 井田幸昌 たしかに日本では「アートがわからない」という声をよく聞く。アート鑑賞は好きでも、わかっているかと言われれば「わからない」と答える人が多いのではないだろうか。そんな鑑賞者に寄り添うように、画家自らも「わからない」と表明し「わかってしまったその日には描く理由を失う」とまで言っている。
このメッセージは、「わからない」という言葉ひとつで芸術と距離を置き、思考停止してしまうのはもったいない、という井田からの警鐘だ。
日頃から感じていた2つの「わからない」
実はこれは、井田にとって初となる国内美術館での展覧会「Panta Rhei|パンタ・レイ - 世界が存在する限り -」のプロモーションの一貫として企画された広告。「私たちはこれからも未知なるものに向き合い続け、果敢に未来を切り拓いていこう」という想いが込められている。
「絵なんてわかってたまるか」という強い言葉で表現したのはなぜなのか。井田はこの言葉に、日頃から感じていた2つの「わからない」を込めたのだという。
ひとつは、鑑賞者の「わからない」。国内外を行き来する生活を送っている井田は、かねてから日本人にもっとアートに興味を持ってほしいと感じていた。欧米では美術館に行く文化が根付いており、美術館を訪れると子どもたちが作品の前でメモをとったり、学芸員の話を聞いていたりする光景を目にすることもよくある。
「欧米では、老若男女が気楽にアートに触れている印象です。ローラースケートでやってくる子どもなんかもいる。一方で日本人では少し敷居が高いというか。音声ガイドを借りて一作品ずつ説明文を読みながら鑑賞するスタイルが存在し、絵そのものよりも、誰がどういう意図でつくった作品か、という“情報”を知ることに価値を置いているように感じます。もちろんそういった見方も大切なのですが、それだけだとちょっともったいないなと思って」
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